プロフィール
板垣 一寿さん(いたがき かずとし):村上市高根(旧朝日村)出身。自然豊かな場所で育ち、山が大好き。中学校卒業後、東京の電気機器製造会社へ就職し、45歳で脱サラ。第2の人生として、新発田市下小中山で「山岳手打ちそば一寿」をオープンする。
脱サラした、第2の人生はそば屋
――板垣さんの生い立ちや趣味などについて教えてください。
板垣さん:村上市高根(旧朝日村)で生まれ育ちました。自然に囲まれた場所だったので、野山をよく駆け回り、小学生の頃から山菜採りをするのが好きでした。当時は、学校全体で山菜採りを行い、採った山菜を売り、売れたお金を生徒会費として集めていました(笑)。全校生徒で実施するので、かなりの量が採れるのですが、私はいつも3位で悔しかったです。
――かなり活発だったのですね(笑)!ずっと村上市で過ごされていたのですか?
板垣さん:中学校を卒業してすぐに、東京の電気機器製造会社へ就職しました。右も左も分からない中、親元を離れ、寮生活が始まりました。それから45歳まで勤務し、子どもたちが就職し、手を離れたタイミングで脱サラし、第2の人生ということで始めたんです。
――なぜ、そば屋だったのですか?
板垣さん:元々山が好きだったこともあり、42歳で登山を始めたのですが、それが悪魔の趣味でかなりハマってしまったんです。そんなこともあり、初めは山小屋をやろうと考えていました。ところが、実際に山小屋をするのは難しかったので、山小屋をするにあたり料理を学ぶ中でそばを練習していたのでそば屋をやろうと始めました。
江戸そば再現への道
――店内は山小屋のような雰囲気ですが、こだわられたのですか?
板垣さん:お店は山小屋風に作りました。元々、中古物件としてこの場所にあった店舗の中だけ改装しました。今は、色々貼り付けすぎて壁が埋まってしまっていますね(笑)。
――全く違う業種からのスタートですが、修行などはされたのでしょうか?
板垣さん:そば道場に何回か通い、学びました。逆に修行をしていないので、修行した先のそばというようなこだわりがない分、自由に自然体のそばができるので良いことだと思っています。どこどこの蕎麦と看板を背負っていないので自分の好きなように蕎麦粉などの材料にもこだわれます。
――「一寿」はいつオープンされたのですか?
板垣さん:2004年4月22日にオープンし、今年で18年目です。ありがたいことに、
2005年にはテレビ朝日の「人生の楽園」で紹介されるなどメディアにも取り上げられるようになりました。2012年12月には、ビックコミック「そばもん」に実名で掲載されています。新潟県初だったそうです。
――新潟県初となる実名掲載はすごいですね!
板垣さん:未だに他のお店は掲載されていないようです。新潟県初をいただけたのは素直に嬉しいですね。
――掲載されたきっかけが何かあったのでしょうか?
板垣さん:「討ち入りそば」というそばを再現したんです。新発田市は堀部安兵衛誕生の地であり、武庸会という会の100年記念だった時に、その時代にどんなそばが出されていたのか、それを新発田で出そうと思い、江戸ソバリエ協会の理事長に資料を調べて欲しいと依頼をしました。その後、1年程連絡がなく、どうしたのか聞いたところ見つからないと言われたんです。そんな中、「私も一緒に資料を探すので、再現してみませんか」と言われ、江戸ソバリエの理事長と元大妻女子大の松本先生と共同で再現させました。
――昔の資料から再現するのはなかなか大変そうですね…。
板垣さん:すでに東京で再現しようとしていた方がいたようですが、みんな失敗していたんです。昔の時代は、書く人と作る人が違ったんですよね。書く人は、そういうものだろうと勘違いして文面に残しているのでその通り作っても上手くできないんですよね。また、その時代にあった食材で作らないといけないわけです。資料からヒントを得ながらこれだ!というものができ、完成させました。
――今までできなかったものを再現されたんですね。
板垣さん:そうですね。また、調べる過程の中で、そばの文化についても学びました。この時代に江戸には醤油が無かったんですよね。だから、「討ち入りそば」は味噌だれなんです。味噌を水に溶いたものを煮詰めて、そばのタレにしていました。当時のそばは、“すする”文化ではなかったんですよね。お椀にそばを入れて、少しずつ薬味とタレを入れて、“和えて食べる”文化だったんです。
――今とは全く異なりますね。
板垣さん:すする文化というのはごく近年の話ですね。そば屋に焼味噌など味噌料理がある理由は、味噌を濾してたれを作り、残った味噌の粕を利用して料理に変えていたんです。だから、そば屋には味噌料理があるんです。
――再現する過程でそばの知識も学ばれたんですね。
板垣さん:いつの間にか勉強になっていて、自然と身に付きました。一緒に研究していたのが江戸そばに詳しい方ばかりだったので、そばを再現するにあたって、たくさん勉強して、そばに関する知恵者がいてくれたからですね。
まずはそば本来の味を楽しんでほしい
――一寿では、普通のそばのほかにも「ダッタン蕎麦」がありますが、特徴を教えてください!
板垣さん:ダッタンそばは、一般的な普通のそばに比べ、紫外線の強い厳しい環境に生息するので、ルチンというポリフェノールを普通のそばの100倍含んでいます。ルチンの色素成分が黄色なのでダッタンそばもほんのり黄色がかった色味とほのかな苦みが特徴です。一寿のダッタンそばには、新潟県生まれの「ダッタンソバ・北陸4号」を使用しています。元大妻女子大の松本先生と共同研究し、より良い蕎麦を提供するために精進しています。北陸4号はえぐみが少なく、食べやすいと思います。
――ダッタンそばは健康にも良いと言われていますよね。
板垣さん:そうなんです。そういった点では、これからも需要のある商品だと思います。そばアレルギーがある方はだめですが、花粉症の方にもおすすめです。ルチンの粉も販売しているのですが、その粉小さじ1杯だけでも一日の摂取量になるんです。それを飲んでいると、だいたい発症しなくなります。
また、ダッタン蕎麦には苦みがありますが、鴨汁と食べるととても美味しいです。鴨肉にもこだわり、本物を使っているので汁の味が違います。苦みのあるダッタンそばは、脂との相性が良いのでぜひ味わってみて欲しいです。
――おすすめのそばの食べ方を教えてください!
板垣さん:まずは、箸で塩をつつき、塩だけでそばを食べてみてください。そうするとそば本来の味がよくわかります。そばの食べ方も、味を巡るという考え方に立つと初めはそのまま塩を付けて食べ、次はつゆだけで食べる、その後、薬味を入れて食べ、つゆも一気に入れずに少しずつ入れるんです。味の変化を楽しみながら食べると、より一層美味しく食べられると思います。
――つゆにもこだわられているんですよね。
板垣さん:手打ちそばはなんで美味しいかわかりますか?それは、麺の太さが不揃いだからです。人間の味覚は、嚙む度に同じだとすぐ飽きてしまうんですよね。次々に太さが異なるので飽きずに美味しく食べられます。つゆも同じで単調だと飽きてしまいますよね。だから、食べている間に飽きないように産地の異なる昆布を使ったり、3つの鰹節をブレンドしたり、佐渡のあごの煮干しを使っています。最後にそば湯を飲むところまで美味しいように計算して作っています。
――最後まで楽しめるように計算されているのですね。
板垣さん:温かいそば湯がつゆに入ると佐渡のあごの煮干しが甘みになって出てくるんです。そば湯を飲んで30分くらいは、時々旨みが口の中で広がります。そば湯を入れておいしいのは本物のつゆの証拠です。うちのつゆは、飲んだ後もすっきりしているので来られるお客さんのほとんどが全部飲まれて帰りますね。
これからも学び続ける
――最後まで、おいしく楽しんでほしい板垣さんの想いが伝わります。コロナ禍の今、影響があったのではないでしょうか。
板垣さん:影響はたくさん受けました。毎年、日報リフォームフェアにも出店していたので、イベントが中止になったりとなかなか影響を受けましたね。しかし、ガタ市への出品も初め、通販の売上も少しずつ増え、ありがたいです。
――スタッフやお客様との印象に残るエピソードを教えてください。
板垣さん:そば打ち体験をやっているのですが、一般の方はもちろん、板前の方なども習いに来ています。ある時、障がい者施設の親子と先生がそば打ちをしに来られたのですが、包丁みたらきゃっと、逃げ出すような子がとても上手にそばを切っていたんです。素直だからこそできてるんだなと思って、健常者が上手なのは当たり前だと思っていたのですが、誰よりもその子たちが上手でした。その子たちも嬉しくてしかたなかったんでしょうね。入り口で何度もありがとうございましたと言ってくれて私も涙が出そうなくらい嬉しかったのをよく覚えています。
――最後に、今後、挑戦したいことや展望を教えてください。
板垣さん:もう歳なので、表立ったことはあまりないのですが、今までやってきたことをより熟成させて、じっくりやっていきたいです。やはり、色々なことを学ぶという姿勢は忘れたくないですね。今までの学ぶ意識がこれまでの結果になっていると思います。今、調理師の方が蕎麦打ちを習いに来られているので、交流も増えました。その中で私も多くの知恵をもらっているんですよね。交流によって生まれたメニューもあります。
――また、どんな方に一寿の商品を手に取ってもらいたいですか?
板垣さん:ダッタンそばは、健康に気を付けている方に是非食べてもらいたいです。血管が丈夫になるポリフェノールなので、その人その人の弱っているところが改善されていくと思います。そばは昔から体にいいと言われていますが、それがどこに効くかは分からないですよね。今は研究が進み、ダッタンそばの場合は、血管に良いということが分かっているので、今コロナ禍で免疫力を上げるという意味でもぜひ手に取っていただきたいです。
【山岳手打ちそば一寿】
住所:新発田市下小中山1024-15
電話:0254-33-3480
営業時間 11:30~2:00 6:00~9:00
定休日 月曜夜・火曜日(1月・2月は月曜日・火曜日)
わしもダッタンそばを食べて免疫力を上げたいのう~今度、「山岳手打ちそば一寿」に家族みんなで行ってみようか~