【プロフィール】
日坂 力也(ひさか りきや):広島県出身。高校卒業後、美容室で働きながら通信教育で学び、美容師免許を取得。20 代半ばで上京し、美容専門学校講師を務める。30代半ばで夫人の故郷・新潟県へ移住し、長岡美容専門学校で校長を勤めた後に独立。2024年11月に「訪問理美容ハートコネクト」を設立し、福祉理美容に従事しながら、後進の指導も行っている。
『新潟人230人目は、「訪問理美容ハートコネクト」の代表である、日坂力也さん。美容専門学校の講師を務め、今年11月から訪問理美容のサービスをスタートされました。「色々な方の“きれいになりたい”気持ちを叶えたい」と話す日坂さんに、福祉理美容師のやりがいや今後の目標を伺いました。素敵な笑顔で取材に応じてくださり、ありがとうございました!』
野球少年から美容師へ
──美容師を目指したきっかけを教えてください!
日坂さん:思春期って色気づくじゃないですか(笑)。カッコつけたくて、都会から帰ってきた美容師がいるサロンへ通っていたんです。お客様の理想の髪型をつくる姿を見て、カッコいいなと憧れました。
──高校時代の進路選択の時には決めていたのですか?
日坂さん:高校生まで強豪校で野球をやっていたのですが、実力のある同級生がたくさんいました。進路を考える時期に、「野球を仕事にするのは簡単じゃない」と思い知らされて…。かつて美容師に憧れていたことを思い出して決めました。
──高校卒業後はお店で働きながら通信教育で学ばれたのですね!
日坂さん:そうなんです。自分は学校で学ぶスタイルより現場で実践的に学ぶ方が合っていると思い、通信を選択しましたが、専門学校で教えていた時は、「彼らのような学生生活もいいな」と思いましたね(笑)。
──働きながら学ぶのは大変ですよね…。
日坂さん:国家試験の合格率は、専門学校生と通信教育生ではかなり違うんです。専門学校に通えているのは、それだけ“恵まれている環境”だと思いますね。
──専門学校の講師になったきっかけは何だったのですか?
日坂さん:最初に勤務していたお店の社長が店舗経営と専門学校の講師をしていて、「お前もやってみないか」と声を掛けられたのがきっかけですね。講師になってみて、“素晴らしい仕事”だと感じましたが、学生が学校生活の間に「美容は楽しいと思えるか、美容は辛いと感じるか」は講師の責任も大きいと思います。
「学生の成績は、講師の成績表」と考えていたので、大人の言葉や姿が学生にも反映されることを常に意識していました。大変なこともありましたが、これまで出会った学生たちが自分の大きな財産になっています。
訪問美容の重要性
──新潟に移住後も、専門学校の講師をされていましたね!
日坂さん:美容業界以外の仕事も考えてみましたが、いろいろな人に相談すると「あなたが先生をやらないで誰がやるの」と言われて…(笑)。
それならと美容専門学校に募集の有無を電話で聞きまわり、「長岡美容専門学校」にご縁をいただきました。最終的には校長を務めさせていただき、多くの素敵な学生たちと出会うことができました。
──「訪問理美容ハートコネクト」の事業をスタートされましたね!
日坂さん:事業内容は、「訪問理美容」と「福祉美容師養成の講師活動」です。
今まではお客様が来店するのが当たり前でしたが、高齢者が増えていく中で「訪問理美容が大切になってくる」と思います。“それに対応できる理美容師の養成”が重要だと感じています。
──“訪問理美容師”を始めるきっかけは何だったのですか?
日坂さん:超高齢化社会のなか、専門学校でも福祉理美容の授業を取り入れていました。現状を知り、“お店に行きたくても行けないお客様がこんなにたくさんいること”に驚いたんです。
また、医師から「時に理美容師の力は医師や薬よりも大きい力持っていることもある」と言われて、理美容師が“生きがいや笑顔を作っていること”に、新しいやりがいを感じたのがきっかけです。
「私たち理美容師を必要としてくれている人たちがたくさんいる」と感じ、“福祉理美容師としての活動と後進の育成”の両方をやっていこうと考えました。
──現在は長岡市を中心に訪問されているのですね!
日坂さん:長岡市のほか、小千谷市や見附市、出雲崎町を対象にしています。今後は訪問範囲の拡大も考えているので、その他地域の方はご相談ください。メニューは“カットやシャンプー、ヘアカラー”がメインで、ご自宅はもちろん、施設や病院などにも訪問していますね。
福祉理美容師の資格を持っているので、ご高齢や障がいをお持ちの方、病気やケガで療養中の方、産前産後の方など、様々な方に安心してご利用いただければと思います。
“きれいと生きがい”を作る
──お客様との印象に残るエピソードを教えてください!
日坂さん:施設の一角を借りて、高齢の方のヘアカラーをしたんです。施設のスタッフさんが出入りするたびに、「嬉しそうだね」と皆さん声を掛けてくれるんですよ。後日お伺いした際、スタッフさんから「あれから毎日カラーの話してくれて、次は色を変えてみようかなと嬉しそうに言っていましたよ」と教えてくれました。
そのご利用者さんは人生初カラーだったそうですが、環境的に制限されることが多い中で、「やってみたかったことを叶えてあげられるのは、サロンとは違うやりがいがある」と感じました。
──髪がきれいになると気分も上がりますよね!
日坂さん:ご利用者さんもすごく喜んでいました。そういうお手伝いをさせてもらえるのは、本当にいい仕事だと思います。
誰かの「なりたい」を叶えるのが、理美容師の仕事ですからね。
──どんな環境でも「きれいになりたい」と思う方は多いですよね。
日坂さん:「きれいになりたい」という思いが叶った時、それが生きがいに繋がると思います。福祉美容師養成のための講師活動では、「きれいを作る」に「生きがいを作る」をプラスした“福祉理美容師の重要性”を伝えています。
──「施設にいるから…」と諦めている方もいますよね…。
日坂さん:「施設にいて外出できないから、きれいにする必要がない」というネガティブな声もありますが、ヘアカットやカラーをすることで気持ちが上がると思うんです。
ご家族から依頼をいただくこともあって、「いつまでもきれいでいて欲しい」というご家族の思いを感じます。ご本人はもちろん、ご家族にも喜んでもらえるのは本当に嬉しいですね。
“普通の暮らしをできる手助け”を
──訪問美容で大切にされていることは何ですか?
日坂さん:ご利用者さんの負担を少なくする為に、施術にできるだけ時間を掛けないようにしています。体の向きを変える時など、負担を軽減する知識も訪問理美容では大切です。
また、感染対策や衛生管理は一番気を遣いますね。自分自身の手指はもちろんですが、ハサミや櫛などの道具の管理、消毒についても講習会でもしっかり教えています。
──最後に、今後の目標を教えてください!
日坂さん:「ノーマライゼーション」には、“すべての人が障害の有無にかかわらず、普通の生活を送れる社会を目指す”という考えがあります。皆さんが“普通の暮らしをできる手助け”ができればいいなと思いますね。
高齢の方や障害をお持ちの方は、「髪が伸びたから切る」という普通の暮らしが難しい状態のケースもあります。椅子に座れなくても、ベッドの上でもカットやヘアカラーをできることを知ってもらいたいです。私たちが出向いて施術することで、“プラスの笑顔や生きがい”を作っていきたいですね。
──同じ思いを持つ素敵な福祉理美容師が増えると嬉しいですね!
日坂さん:理美容師になってから最初は大変なこともありますが、初めてお客様に認めてもらえた時、これまで大変だったことを一瞬で忘れるほどの“喜びとやりがい”を感じます。それはお店でも、自宅や施設でも同じです。
自分がやったことで喜ばれたというのは、プライスレスですよ。お客様と喜びを共有できる、そんな理美容師でありたいし、若い理美容師たちにも目指してほしいと思います。
──理美容師の活躍の場も広がっていますね!
日坂さん:理美容師の資格は持っているけど、今は離れているという方もぜひ福祉理美容師として現場復帰してもらいたいです。
「NPO法人全日本福祉理美容協会」の講習会は、高齢者や障がい者のことをはじめ、衛生管理や何から始めればいいのかなど、わかりやすい内容になっています。地域のお店に行くことができない方々のキレイをぜひ一緒に作っていきましょう。
日坂さんの今後の活躍に期待ね♪