【プロフィール】
善宝 知子(ぜんぽう ともこ):新潟市出身。東京都内の学校を卒業後に、都内の貿易会社に勤務。帰郷後、家業を継ぐ形でアイビス技建株式会社(当時は別名)の代表に就任。廃棄物処理業から施設管理業、ビルメンテナンス業へと事業を拡大し、約50年にわたり経営の舵を取る。2025年にご子息へ社長職を譲り、現在はライフワークである写真家としての活動に注力。ヒマラヤの風景や現地の人々を写した作品を数多く発表している。

貿易会社から家業の継承へ
——会社を経営することになった経緯を教えてください。
善宝さん:東京都内の貿易会社で働いていましたが、新潟に戻って父の会社を継ぐことになったんです。
引き継いだ会社をもとに「アイビス技建」を立ち上げ、廃棄物処理・建設・施設管理など、“地域が抱える課題を解決する事業”に進出していきました。
——女性経営者が少なかった時代で、大変な決意だったのではないでしょうか。
善宝さん:「地域に何が必要か」を常に考え、インフラを裏側から支える仕事に誇りを持って取り組んできました。
2025年3月に退職を迎えましたが、50年という長い月日を“全力で駆け抜けた仕事人生”でした。
——経営者として最も大切にしてきたことは何ですか?
善宝さん:「社員が事故に遭わない環境を整えること」です。そのために、“技術の習得や資格取得といった教育”には特に力を入れてきました。
私の役割は表舞台に立つことではなく、家でいえば「台所の大黒柱」のような存在だと思っていましたね。

還暦を機にネパールへ
——還暦を機に写真に興味を持たれたのですか?
善宝さん:1998年にカムチャッカ半島でのオオヒシクイ調査に参加し、写真の魅力に目覚めました。
日本写真家協会会員の「清水重蔵先生」に師事し、写真のイロハを教えていただきました。ネパールにあるヒマラヤに渡航したのは、還暦を迎えたタイミングでしたね。
——なぜヒマラヤへ?
善宝さん:学生時代に、“小田急百貨店で見た写真展”が原点です。
そこで見た“真っ赤に染まったヒマラヤの山”が衝撃的で、「山がこんな色に焼けるなんて本当かな?」という不思議な感覚がずっと心にありました。
——学生時代からの想いだったのですね。
善宝さん:仕事を全うして還暦を迎え、自分の足で歩けるうちに行ってみようと決心しました。

少数民族「シェルパ」との交流
——実際に行ってみていかがでしたか?
善宝さん:最初は不便さに驚いて、「二度目はないかな」と思いました(笑)
ところが、エベレスト街道を歩いていると、“現地の子どもが私たちの世代の子ども時代”とそっくりだったんです。
言葉を話さなければ日本人と見間違えるほどで、「シェルパの故郷」と言われる村の人々に、親しみを感じるようになりました。
——「シェルパ」について教えてください。
善宝さん:一般的には登山ガイドや荷運びをする人々の総称として知られていますが、実は「チベット系の民族の一つ」を表します。
エベレスト街道が彼らの故郷だと思われがちですが、800年前にチベットから山を越えて降り立った人々が住む「ロールワリン・ベディン村」が本当の故郷だと言われているんですよ。
そこへ実際に行ってみて、“シェルパという民族の絆と力強さ”に心を打たれました。

——「ヒマラヤ」の魅力はなんですか?
善宝さん:大自然も魅力ですが、シェルパのお母さんの姿に感動を覚えました。寺子屋のような学校で子どもを教育し、クライミングの技術も習わせます。
そうして父親と共に「山岳シェルパ」として、世界中の登山家を支えているんですよ!
——お母さんたちの姿に共感をされたのですね。
善宝さん:お母さんたちは夫や子の無事を祈り、その仕事に誇りを持っています。
その姿を見て、“経営者、そして母として生きてきた自分自身”の姿を重ね合わせていました。
——現地の方との交流が旅の魅力なのですね。
善宝さん:彼女たちの笑顔の奥に「哀しみと幸せ」を垣間見ることができ、人間味溢れる姿に一番の魅力を感じました。
また、一緒に行動している友人が絆創膏や消毒薬をたくさん持っていくのですが、治療をしてあげると本当に喜んでくれるんですよ。そんな温かな交流が支えになって、何度も足を運んでいます!

「別人」になれる場所
——善宝さんご自身にも変化があったのでしょうか。
善宝さん:3回目の渡航の時、凝り固まっていた重荷がすっと取れていくのを感じたんです。
実は…、主人が心配して毎日のように電話をかけてくるのが嫌で、“スマホも衛星電話もすべてのスイッチを切って”歩き始めたんですよね(笑)
——思い切った決断ですね(笑)
善宝さん:おかげで何と気が楽になったことか!すべての疲れを置いて、日常の私ではない「別人」になれました。
会社や家庭のことを忘れ、現地の人々と心を通わせる時間が、私にとって最高の贅沢になりました。
——その瞬間をカメラに収めるのですか?
善宝さん:現地の人々とは、友達と話すように笑いを誘いながら、一軒一軒訪ね歩いて写真を撮っています。
単なる被写体としてではなく、「人と人としての繋がり」が写真に宿るようになったと感じています。

——ヒマラヤの大自然についても教えてください。
善宝さん:ヒマラヤの植物は、雨期に一斉に咲き誇ります。私は主に「雨に濡れた可憐な姿」を狙ってシャッターを切るんです。
7月から9月の山道はヒルがたくさん出るので、「タイガーバーム(万能軟膏)」を持って対策しながら、撮影に挑むんですよ。
——撮影のコツは?
善宝さん:花や植物には「こっち向いて、きれいだね」と声をかけることが多いです。
そうすると、彼らも答えてくれるような気がするんですよね!
——素敵な撮影方法ですね!
善宝さん:私は新潟の雪景色も大好きで、よく撮影に行きます。
新潟の豊かな自然が私の心を磨いてくれたのだと思っています。

写真展を開催
——今後の活動について教えてください。
善宝さん:ヒマラヤへは10回以上通い続け、峠を越えてようやく納得のいく「赤い山」が撮れました。
学生時代に写真で見た光景を自分の目で確かめたときは、本当に感動しました!その集大成として、「新潟市美術館 市民ギャラリー」で写真展を開催する予定です。
——写真集も出版されるそうですね。
善宝さん:15年という歳月をかけて、ネパールの地で撮り続けてきた写真集『神々の赤い山 ヒマラヤは遠きにありて』を2026年10月14日(水)に発売します。
ヒマラヤの峻烈かつ神々しい姿を、一冊にまとめました。
——見どころは?
善宝さん:朝焼けと夕焼けのわずかな時間、“名だたる名峰が見せた荘厳な瞬間”を捉えています。
写真展とあわせて、ぜひ多くの方に手に取っていただければ嬉しいです。
——最後に、読者へのメッセージをお願いします。
善宝さん:夢はただ見るだけでなく、“実行してこそ納得できる”もの。
ネパールでの旅はひと区切りつきましたが、日本の山にも挑戦しながら「光と風を求める旅」を続けていきたいですね!

【善宝知子 写真展】
「神々の赤い山 ヒマラヤは遠きにありて」
会場:新潟市美術館 市民ギャラリー
観覧料:無料
会期:2026年10月14日(水)〜10月18日(日) 9:30~17:00
※初日13:00~ 最終日16:00まで
【写真集】
『神々の赤い山 ヒマラヤは遠きにありて』
著者:善宝 知子
価格:1,980円
発売日:2026年10月14日(水)