プロフィール
井田 法良(いだ ほうりょう):富山県射水市出身。日蓮宗・法唱寺の三代目として生まれ育つ。東京でのバンド活動ののち帰郷し、僧侶へと転身する。2016年より上越市にある法唱寺別院「日吉結社」の住職として、祈祷や悩み相談などを行っている。
ガタチラスタッフ:『新潟人93人目は「日蓮宗如意山法唱寺 日吉結社」住職の井田さん。元バンドマンという意外な経歴を持つ井田さんは、“環境を変えたい”などの悩みを抱えている方の拠り所となっています。素敵な笑顔で取材に応じてくれた井田さん、ありがとうございました!』
東京でのバンド活動から帰郷、仏の道へ
──井田さんの生い立ちを教えてください!
井田さん:富山県出身です。実家が射水市にある「法唱寺」で跡取りとして育てられてきましたが、「音楽がやりたい」という夢があったので、バンド活動をするために高校卒業後、東京へ行きました。バンドでは、ボーカルの他にギターで作曲をしていたので、その経験はお経を詠んだり、鳴り物を使う時に役に立っていますね。
──本格的にバンド活動をされていたんですね!
井田さん:23歳の時に、プロジャズドラマーの方と知り合って、その方からジャズライブに誘われたんです。そこで、ボーカリストの方と出会い、「音楽で食べていきたいなら、東京に出てきなさい」と言われて、上京を決めました。その後、関東でミュージシャンたちと出会い、バンドを組み、インディーズで活動していたんです。
──意外な経歴で驚きました(笑)。
井田さん:子供の頃は寺を継ぐ前提だったので、親には厳しく育てられました。その反動で、自分はこのままでいいのかと考えたり、友達から寺の子であることをからかわれたりして、それが嫌だったんですよね。跡を継がせるために育ててきたわけですから、両親はもちろん大反対です。両親だけでなく、寺を開いた祖母も大反対でした。最終的に父親を納得させて、上京を許してもらいました。
──僧侶になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
井田さん:27歳の時に祖母が亡くなり、富山へ帰ったことがきっかけです。度牒(出家・得度の儀式)の資格が消えてしまうタイミングでもあったので戻ることを決めました。それに、祖母が夢枕に立ったんですよ(笑)。「お前が大人になって正式な衣を着た姿が見たい」と、ずっと言っていましたからね。
毎朝の水行から始まる一日
──僧侶の1日のスケジュールはどのようなものですか?
井田さん:普段の冬場は毎朝2時半に起きて3時から水行をします。4時に本堂へ上がり、6時まで読経をしますね。荒行中は朝3時、6時、9時、12時、15時、18時、23時の1日7回水行を行います。深夜0時までに就寝して、そしてまた2時半に起床して…という繰り返しです。荒行は、11月1日から2月10日までの100日間行うのですが、食事も最初の35日は1日2回のお粥とみそ汁だけです。その荒行ができないと、日蓮宗に伝わるお祓いを行う認可が下りないのです。
──「法唱寺日吉結社」について教えてください。
井田さん:法唱寺の別院にあたります。寺には等級があり、一番高いのが寺院、その次が教会、その下が結社になります。「日吉結社」は祖母が設立しました。私がここで活動を始めたのは2016年からです。初めは来られる方も少なかったのですが、一度来てくれた方の紹介で相談に来られる方が増えましたね。2022年1月には、「節分星祭り祈祷会」の行事も実施しました。
毎年2月に富山県の本院・法唱寺で開催される節分行事が、2022年に日吉結社で初開催されました。本堂での健康・開運招福の祈祷のほか、穢れを落とす水業を実施し、多くの方が参加されたようです。おでんの提供もあり、水行をした身体に染み渡るおいしさです。1年の始まりにぴったりな「星祭り祈祷会」は、今後も開催予定とのことなので、気になる方はぜひお問い合わせください。(問い合わせ先:如意山法唱寺 TEL0766‐56‐0618)
──相談に来られる方は若い方が多いのですね。
井田さん:最近は若い方がよく来られます。若い方は素直な子が多く、一緒に食事をしたり、語り合ったりしています。核家族化が進み、おじいちゃんやおばあちゃんの温かさを感じる減ってしまったので、どこに頼ればいいのか分からなくなっていると思います。だから、ネットの中に助けを求め、犯罪に巻き込まれることも増えています。こちらは“日蓮宗”の看板を背負っているので、いい加減なことは言えません。時には怒ることもあります。今は人と人との関係が希薄になっていて、近所のおじさんやおばさんのような存在が逆に求められているのではないかと思いますね。
大切なのは“素直”であること
──日吉結社に来られた方との印象的なエピソードを教えてください!
井田さん:来られる方は、「環境を変えたい」などの悩みを抱えて、神仏に頼りに来ます。科学的根拠や医学的根拠とは違うものに気づいて来られる方が多いです。だからこそ、少しずつでもいい方向へ行ってもらいたいという気持ちでやっています。皆さん、帰る時には明るい表情になって「また来ていいですか?」と言ってくれるのが嬉しいですね。感謝されるというのは、やりがいにも繋がります。
──出家を希望する方もいるのでしょうか?
井田さん:今のところはいませんが、人柄を見て案内する場合もあります。過去には、親に連れられて弟子入りに来た子を預かったことがありましたが、真面目に修行をして一人前になり、福井の寺に婿入りしました。今は僧侶も人手不足なので、これからは弟子を一人前に育てることも大事な仕事ですね。
──最後に、今後の目標を教えてください!
井田さん:それぞれが願う幸せに、少しずつでも近づいて行って欲しいです。「お互い様」という言葉がありますが、今の時代こそ一番大切な言葉ではないかと思います。良くないことがあっても、「お互い様」と言える心が大切です。相手を徹底的に叩く人が増えましたが、そうではありません。日吉結社に来られた方同士が親切にし合っている姿を見ると、これがあるべき姿だと思いますね。私自身、人付き合いに疲れた時期もありましたが、そういう時に限って原点に引き戻してくれることがあります。その度に、「もっと頑張れ」と言われていると思います。だからこそ、足を運んでくれた方が、少しでも良い方向に向かっていくためのお手伝いをしていきたいですね。
【日蓮宗如意山法唱寺 日吉結社】
住所:上越市黒井2176‐1
電話:050-1865-1816(日蓮宗如意山法唱寺)
意外な経歴でびっくりだわ~私も水行してみたいわ!