プロフィール
若山 裕伸さん(わかやま ひろのぶ):1974年生まれ、新潟市出身。高校まで新潟市で育ち、大学進学で東京へ上京する。卒業後に就職した企業で新潟配属となり、新潟へ戻る。2年働いた後、知り合いとカフェを起業、子どもの食物アレルギーをきっかけに「こかげカフェ」をオープンする。
何か好きなことをしたいと始めた飲食業への道
――若山さんの生い立ちや趣味などについて教えてください。
若山さん:生まれは十日町市ですが、父親の仕事の関係で新潟市内を異動しながら育ちました。高校まで新潟市で過ごし、大学進学とともに東京へ上京しました。大学卒業後は、全国に営業所のある企業に就職したのですが、初任地が偶然にも新潟になったので戻りました。
――初めは企業に勤められていたのですね。
若山さん:2年程働いた時に希望退職を募るタイミングがあったんです。元々、希望した職ではなかったこと、その会社にずっといるつもりもなかったので、ある程度の退職金もいただける希望退職で早期退社しました。
――その時から次のことは考えられていたのですか?
若山さん:具体的に決めていたわけではないのですが、単純に好きなお店でもできたら良いなと思っていました。 たまたま、一緒に飲食店をやろうと言ってくれる先輩がいたので、その方と一緒にカフェを起業したのが飲食店に関わるきっかけでしたね。
きっかけは子どもの食物アレルギー
――「こかげカフェ」をオープンされたきっかけを教えてください。
若山さん:独立して何かやろうとした時に、関わってきた飲食の業界がやりやすいなという想いがありました。そんな中、息子に卵とピーナッツのアレルギーがあり、自分の食生活も一変したんです。そこから同じように食べれないものがある人は困っているのではないかと考え、同じ境遇の方にも外食できる機会を作りたいと思ったのがきっかけです。
――看板商品は、なぜベーグルにされたのでしょうか?
若山さん:色々と考えた中で、ベーグルが卵と乳製品を使わないヘルシーなパンだということを知り、やってみようと始めました。当時、ベーグルがニューヨークで流行し、日本にも入ってきていて、東京には専門店があったりしました。独特なパンですが、お洒落でヘルシーなイメージもあり、特徴のあるもので食事の制限がない方も喜んで食べてもらえるようなものになると思いました。
――確かにヘルシーでアレルギーの制限がない方にもおすすめですね。
若山さん:そうですね。この独特なモチモチの食感が好きと言ってくださるお客様もいらっしゃいます。
――来られるお客様はどんな方が多いのでしょうか?
若山さん:食物アレルギーの方は1割もいないくらいです。オープン当初よりは増えていますが、全体的に見ると食物アレルギーの方も割合的には多くはないので、その制限がある方だけでお店を回していくのも難しいところがあります。
――食物アレルギーに困られている方にとっても、外食できる場があるのは嬉しいですよね。
若山さん:そうだと嬉しいです。県外からもこかげカフェを目指して来てくださる方もいらっしゃいます。GWや夏休みなどには、卵・乳製品・小麦不使用のヴィーガンソフトクリームを「食物アレルギーの子供に食べさせたい」という親御さんがファミリーでわざわざ来てくださいます。
卵と乳製品を一切使用しないカフェ
――お店のメニューには全て卵と乳製品を使用されていないんですか?
若山さん:店内の商品は、全て卵と乳製品を使っていません。大体皆さんが好きな物には卵や乳製品が入っていますよね(笑)。美味しいものには結構入っていますし、食材としても優秀な食材です。それらを使えないというのは、どうしてもメニューの幅は狭まってしまいます。
――確かに、卵も乳製品も美味しいですし、よく使われているイメージがあります。
若山さん:子どものアレルギーで1番多いのが卵、2番目が乳製品、3番目が小麦というデータがあります。最初は卵抜きだけでも良いかと思っていたのですが、卵と乳製品が子供のアレルギーの約7割というデータもあったので、その2つを使用しないカフェができれば、多くのアレルギーの子供たちも利用できることになります。そこで、卵と乳製品の2つを外したメニューをコンセプトでお店を作っていきました。
――アレルギーにも種類がありますもんね。
若山さん:パッケージされている商品にもアレルギーの表示をしなければいけなくなっていますが、元々5品目表示から、今は7品目になっています。それを食べることによって重篤な健康被害を受ける人が徐々に増えてきているということもあると思います。僕自身は、食物アレルギーというのがないので、それまで全く気にもせず、美味しそうだと思ったものを注文し、食べていました。ですが、まず料理に何が入っているのか確認しないと、家族の健康に被害が出る状況になったのでガラッと生活が変わりましたね。
――そうなると、外食もなかなか難しいですよね…。
若山さん:そうですね。お店に行っても子どもが食べたいと言ったものを食べさせてあげられないので、だんだん行かなくなるんですよね。確認するにしても、ホールスタッフの方が全部の材料を知っているわけではないですし、大丈夫だと出てきたものを見ると、これはアレルゲンが入っているだろうという経験もありました。
――ご自身の経験があるからこそのお店ですね。
若山さん:食物アレルギーの方でも食べれるような卵・乳製品を使わないメニューはもちろんですが、アレルギーをお持ちでない方にも満足してもらえるものを目指しています。食物アレルギーの方だけが喜んでも、一緒にいる方が物足りないと思ったら楽しくないですよね。どちらの方でも楽しい時間を過ごしていただきたいと思っています。
(2021年4月24日現在メニュー)
――カフェメニューは種類が豊富ですが、メニューは若山さんが考えられているのですか?
若山さん:そうです。低アレルゲンメニューを教えてくれる場もないので、自分で何かを参考に作り出すしかないんですよね。材料が制限されることによって、メニューが少ないという印象も持たれたくなかったですし、カフェに来てくださるお客様はアレルギーをお持ちではない方の方が多いので、そういう方にも足を運んでいただけるよう、色々と工夫をして頑張っています。
――これだけのメニューは食材に制限のあるカフェには見えないですね!
若山さん:最近は、若い年代の方がお友達同士で来てくださることも増えてきました。オープン当初は美術館に来たついでに利用される方が多かったのですが、今はカフェを目指して来てくださる方が多くなってきているので、美術館に併設されているカフェというより、カフェとしての認知が上がってきているのは嬉しいことですね。
新潟の食材の魅力を発信
――「新潟っぽいもの」というのもテーマにされているんですよね。
若山さん:全てではないのですが、県産の材料にこだわっています。ベーグルの付加価値を高める為に、「ベーグルを食べに行ってみよう」と思ってもらえるようなことも意識してやらないと、という想いもありました。当時、お米の作付面積が減る中で、小麦を作る動きも出てきていたんです。そういったことの普及に少しでもなればというところで県産小麦を中心とした生地でベーグルを作っています。あとは、ベーグルの具材にも、新潟の豊かな農作物をできるだけ使いたいと思い、季節に応じて農福連携の取り組みで加工する枝豆やドライフルーツなどを使用しています。
――このコロナ禍でオンラインでの需要も増えていたのではないでしょうか?
若山さん:元々、オンラインでもベーグルの販売をしていたのですが、昨年の緊急事態宣言を受けてからは増えました。SNSで食物アレルギーのある方々と繋がることがあるのですが、そういった方向けに送料無料にしてベーグルの販売も実施しました。
――カフェに行けない方には、オンラインで購入できるのは嬉しいですよね。
若山さん:ベーグル自体は福祉施設で作ってもらっているんです。お店が休業でベーグルの販売ができない状況では、作業所の仕事が無くなってしまうということもあったので、緊急事態宣言中も何かできることがあればというところで送料無料の取り組みなどをしていました。
――福祉施設との連携で作られているのですね。
若山さん:僕も一人で全部できないので、提携先を探していました。卵と乳製品を使わないというところと、ベーグルの作る工程が他のパンと違うということもあり、通常のパン屋よりは新しい取り組みに理解のあるところがないかと探していたところに、たまたま厨房の設備があり、僕の考えていることに賛同してくださる福祉施設さんがいて、ビジネスパートナーとして提携させていただいています。
――スタッフやお客様との印象に残るエピソードを教えてください!
若山さん:僕のように食物アレルギーの方がいるご家族が県外や遠方からも来てくださるのがやっぱり嬉しいですね。来てくださった方はお子さんに「好きなのを選んで良いよ」とよく言うんです。その言葉が聞こえると、このお店をやって良かったと思います。親としても食べたいものを食べさせてあげられないというのは心が痛みます。卵、乳製品に限られますが、こかげカフェでは全部使っていないので「好きなのを選んでも良いよ」とお子さんに言っているお客様の姿はやりがいになります。
――最後に今後挑戦したいことを教えてください!
若山さん:できるだけこの「こかげカフェ」を長く継続したいということと、食物アレルギーがある方もそうでない方も一緒にご飯を楽しめる機会を提供していきたいです。あとは、米粉パンの「ちいさなほし」もプロデュースさせていただいているのですが、そこでは卵・乳製品・小麦・ナッツ類を使わないパンを販売しています。新潟はお米が有名ですが、美味しいのはもちろん、低アレルゲンといってアレルギーの人が少ないという付加価値があると思っています。お米の消費量が減ってきている中で、食べ物の美味しさはもちろん、機能の付加価値を高めて新潟の魅力を全国や海外の方に知ってもらえるようなことができれば良いなと思っています。
【こかげカフェ】
住所:新潟市中央区西大畑町5191-9
電話:050-3590-4402
営業時間:9:30~18:00(L.O.17:00)
定休日:月曜日(月曜が祝日の場合は翌日、展示替え期間、年末年始、美術館に準じる)
食べられないものがある方もない方も一緒に楽しめるカフェなのね!オーナーの素敵な想いが伝わるわ~今度行ってみましょう!