
【プロフィール】
伊藤 久幸(いとう ひさゆき):映像制作やグラフィックデザインなどを手掛ける会社に勤務。退職後、実家の納屋を改装した空間で「BERON COFFEE ROASTER(ベロンコーヒーロースター」をプレオープン。2025年にグランドオープンを果たした。
農家の長男が選んだ「もう一つの軸」
——前職もコーヒー関連のお仕事をされていたのですか?
伊藤さん:まったく違います。映像制作やグラフィックデザイン、イベント企画・演出などを行う会社に勤めていました。
——コーヒー屋さんをオープンした経緯を教えてください。
伊藤さん:実家は兼業の米農家で、長男の私はいずれ家業を継ぐ立場でした。もちろん農業を継がないという選択肢もありますが、状況としては急いで農業に就かなくてもよい環境ではありました。
——農業を継ぐことについては、どのように考えていたのですか?
伊藤さん:ただ、私自身もそこまで若いわけではありませんし、突然両親が農業を続けられなくなり、そのタイミングでいきなりバトンタッチすることになったら、きっと困ってしまうと思ったんです。
だからこそ、なるべく早い段階から両親の農業の現場に一緒に入り、少しずつ自分でもできるようになっていくのが自然な流れだと考えました。そこで、農業とは別に自分自身の仕事を持ちながら、まずは兼業という形で農業に関わっていこうと思いました。
——なぜコーヒーだったのでしょうか?
伊藤さん:ちょうどそのころ、以前から漠然と「いつかコーヒーの焙煎を仕事にできたらいいな」と思っていたことを思い出したんです。
ほとんど使われていない築100年ほどの古い納屋があったので、そこを焙煎所として改修できたら面白いし、良い形で生かせるんじゃないかと思ったのがきっかけです。

——決断に不安はありませんでしたか?
伊藤さん:不安がなかったと言えば嘘になります。ただ、妻が「別にコーヒー屋さんでもいいんじゃない」と言ってくれたんです。この言葉が最終的な決断を後押ししました。
——コーヒーにのめり込むようになったきっかけは?
伊藤さん:20代の頃、洋服屋の先輩がガスコンロの上でフライパンを揺すっていたんです。
何をしているか尋ねると、「コーヒー豆を焼いているんだ」と答えたんですよね。自分でもやってみたくなり、その場で体験させてもらったことがきっかけでした。
——その体験を機に、どのように行動が変わったのですか?
伊藤さん:そこから焙煎にのめり込み、世界各地の豆を飲み比べたり、休日にはコーヒー用の湧き水を汲みに行くようになりました。
——お店の建物について教えてください!
伊藤さん:もともとは納屋でした。ひたすらゴミを撤去して、資材を外に出して、掃除して…。できるだけ昔の雰囲気を生かした店内にしています。

個性豊かな「スペシャルティコーヒー」の世界
——コーヒーの特徴を教えてください。
伊藤さん:インポーターを介してですが、生産者から仕入れるようにしています。コロンビア、ルワンダ、グアテマラなど、自分の目で見聞きし、思い入れのあるコーヒーを選んでいます。
個性的な豆が入荷することもあり、そうした味わいをお客様に紹介するのも楽しみの一つですね。
——常時取り扱っている豆の産地はどこですか?
伊藤さん:コロンビア、グアテマラ、エチオピア、インドネシア、ルワンダの5カ国です。それぞれ精製方法が異なる豆を仕入れ、飲み比べできるようにしています。

コーヒーの概念を変える「発酵」の魔法
——それぞれの豆には思い入れとストーリーがあるのですね?
伊藤さん:ありますね。言葉の壁があるので完璧なコミュニケーションとは言えませんが、農園ごとに考え方や発酵方法に違いがあります。
——例えば、どのような特徴が?
伊藤さん:コロンビアの生産者の一人は、「アナエロビック・ナチュラル」という発酵方法を用いて作っています。
密閉タンクに入れて酸素を遮断し、嫌気状態で発酵させる方法です。個性的な香味が生まれるため、スペシャルティコーヒーの世界で注目されています。
※嫌気状態…環境が酸素を含まない状態のこと。

——コーヒー豆を発酵させるのですか?
伊藤さん:味の土台をつくるのは、コーヒーの精製方法です。
なかでも発酵のフェーズでは、とても個性的で面白い味わいが生まれます。
——具体的には、どのような発酵方法があるのですか?
伊藤さん:例えば、昔ながらの天日干しによる好気性発酵(エアロビック)。空気に触れながらゆっくりと進む発酵によって、自然でやわらかな甘さが引き出されます。
一方で近年は、タンクや袋の中で酸素を遮断しながら発酵させる嫌気性発酵(アナエロビック)という手法も広がっています。温度管理を行いながら発酵をコントロールし、ときにはフルーツや麹などを加えて発酵を促すこともあります。
——発酵の違いによって、味わいはどのように変わるのですか?
伊藤さん:こうした発酵の違いによって、花のような香りやトロピカルフルーツのようなアロマが現れ、時には「これがコーヒーなの?」と思うような新しい味わいが生まれるんです。
コーヒーの世界では今、生産者の工夫によって、驚くほど多彩な味が生み出されていますね。

——発酵による変化を知ると面白いですね!
伊藤さん:甘さや酸の質、香りの複雑さが変化します。これに産地や品種の違いが加わることで味わいは無限に広がり、それが現在のスペシャルティコーヒーの魅力につながっています。
——日本酒造りと同様に、発行に使用する菌によって味わいが変わりますか?
伊藤さん:変化しますね。例えば、コーヒー豆と糖度の高いフルーツを一緒に漬け込んで発酵させたり、発酵時間を調節することで、キンモクセイや桃のような香りが生まれることもあります。米麹を用いて発酵させたコーヒー豆もありますよ。

ワインのように楽しむ「コーヒー体験」
——特徴を持つ豆には、どのような焙煎が合うのですか?
伊藤さん:浅煎りは、豆のキャラクターがいちばん分かりやすい焙煎だと思いますね。産地や品種、精製方法によって生まれた香りや酸味の個性が、そのまま感じ取りやすいんです。
ただ一方で、中煎りや深煎りといったクラシックなコーヒーの味わいも、とても大切にしています。
——焙煎の深さによって、味わいは変わるのですか?
伊藤さん:焙煎はある意味で「炭化」の工程でもあるので、深く煎るほど炭のニュアンスが強くなり、味わいは少しずつ似た方向に寄っていきます。
しかし、その中にある微妙な違いを感じ取るのも“コーヒーの面白さ”だと思っています。

——コーヒーに対する概念が180度変わりました!
伊藤さん:コーヒーというジャンルではありますが、ワインやウーロン茶のような世界観で楽しんでいただくのが良いと思います。
温度によって味わいも変わるので、飲み始めと飲み終わりの味の違いを楽しむのも面白いですよ。
——お客様はどのような方が多いですか?
伊藤さん:コーヒー好きの方が多いですね。秋葉区以外からのお客様も多く、県外の方も来店されます。
先日は日本のコーヒーを求めてコーヒーマップを調べ、カナダから来店されたお客様もいらっしゃいました。

2050年問題を見据えた「未来への挑戦」
——最後に、今後の目標を教えてください!
伊藤さん:コーヒーには「2050年問題」と呼ばれる課題があります。気候変動によって現在のコーヒー栽培の適地が減り、世界的に生産量が減少すると言われています。その結果、コーヒーの価格が高騰する可能性もあります。
コーヒーが嗜好品ではなく、贅沢品になってしまうかもしれません。そうなる前に、スペシャルティコーヒーの魅力を多くの人に知ってもらい、“生産者を支える土壌をつくりたい”と考えています。微力ではありますが、スペシャルティコーヒーのファンを増やせるように尽力していきたいです。

店名:BERON COFFEE ROASTER
住所:新潟市秋葉区荻島1-10-56
営業時間:10:00~16:00、土曜10:00〜18:00
定休日:日曜、火曜、水曜
公式Instagram
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コーヒーの味わいの違いを体感してみたいわね♪