【プロフィール】
佐藤稔(さとうみのる):1976年生まれ、胎内市出身。高校卒業後、調理師専門学校へ進学。新潟市の料亭「生粋」や金沢市の老舗懐石料亭旅館「金城樓」で修業を積む。実家に戻ってからは、胎内市の祭りやイベントにも積極的に参加し、地域を盛り上げる活動にも数多く携わっている。
『新潟人213人目は、旅先の我が家「登喜屋旅館」の4代目・佐藤稔さん。調理師専門学校を卒業後、本格的に料理の世界へ。割烹などで料理の腕を磨きながら、ホスピタリティーも学び、26歳のときに家業を携わることに。修業時代に得たものや生まれ育った胎内市での旅館業についてお話を伺いました。』
家業を継ぐのが当たり前の昭和時代
——家業を継ごうと考えたのはいつ頃ですか?
佐藤さん:明確に考え始めたのは高校生のときですかね。それまでは、漫画家や大工になりたいと言っていました。昭和生まれの長男のせいか、「家業は自分が継ぐもの」と思うようになっていました。
——子どもの頃から料理が好きだったのですか?
佐藤さん:自分の昼食を作ることが多かった程度です。何か凝ったものを作るようなことはありませんでしたよ。
——料理に興味を持ったのはいつ頃ですか?
佐藤さん:調理師の専門学校を卒業し、新潟市内の「生粋」というお店で修業をさせていただいたタイミングですね。親方から下駄が飛んでくる時代でしたが、朝から晩まで多くのことを学びました。私の“料理の基礎”となった大事な時間でしたね。
——「料理の基礎」とはどういったものですか?
佐藤さん:魚のおろし方などをはじめ、“技術的な要素”が大きいです。私は味を分かるようになったのが遅くて、だしのおいしさを認識できたのは金沢に行ってからですね。
料理への興味がさらに高まった金沢時代
——新潟と金沢での修業の違いはありましたか?
佐藤さん:味付けの部分ですね。「金城樓(金沢)」は少し甘みが強く、だしのうま味をしっかりと効かせていました。名物の「治部煮」をはじめ、甘じょっぱい料理も比較的多く、新潟との違いを感じましたね。この違いが【自分の味】を見つけるきっかけになったと思います。
——【自分の味】を見つけるために努力したことを教えてください!
佐藤さん:料理への興味がより強くなり、さまざまな料理屋さんを食べ歩きましたね。
また、新潟での修業が基礎を学ぶ時間であったのに対して、金沢での修業は“応用の時間”でした。それまで培ってきたものを進化させると同時に、年齢や出身地も違う同僚から技術や味を盗み、自分のものとして吸収させていく。そんな毎日は、非常に刺激的で新鮮な体験でした。
——修業中の印象に残るエピソードを教えてください!
佐藤さん:お客さまの朝食を準備したのですが、料理長から料理を出し終わった後に、「以前も来られたことがある方にどうして同じ料理を出すんだ」と怒られたことがありました。
——その叱責を通じていろいろと気づいたのですね…。
佐藤さん:当時の私には料理を作ることしか頭になかったんですよ。“お客さまをもてなす”という視点が欠けていたことを痛感した瞬間でしたね。それからは、お客さまの来店有無などにも気を配るようになりました。
——経験してよかったことは他にもありますか?
佐藤さん:複数の料理長の下で勉強できたのは貴重な経験でしたね。もちろん、ベースとなる味は同じなのですが、最終的な味付けや盛り付けは料理長によって少しずつ異なります。その少しの差を見て学ぶことで、【自分の味】もより明確になりましたね。
自分の色を出すのに有効だった日本酒の会
——「登喜屋旅館」に戻った当時のことを教えてください。
佐藤さん:「うちは料理屋じゃないんだ」と思ったことを今でも鮮明に覚えています。だしも引いておらず、料理の内容もどこか家庭料理の延長だったというか……。父と相談して少しずつ料理の内容や調理法を変えていきました。
——自分の色を出すために取り組んだことを教えてください!
佐藤さん:「日本酒の会」ですね。私の好きな日本酒をメインに据えたイベントを2011年ごろから開催しています。イベントをきっかけに旅館や料理を知ってもらい、利用してもらうケースも非常に多くありましたね。新型ウイルスの影響でお休みしていたので、近々再開したいと思っています。
料理の世界へ足を踏み入れた長男につなぐ
——故郷の胎内市にいる同世代の友人はどんな存在ですか?
佐藤さん:即行動に移す人たちが多く、イベントをやるにしても人任せにせずに協力してくれます。私が実行委員長を務めた「桜まつり」でも、みんながバックアップしてくれて大成功に終わりました。“同じ地域を盛り上げたいという思いでつながる信頼関係”は、非常に大きいなと実感しましたね。
——旅館の蔵が国の有形文化財に選ばれたそうですね!
佐藤さん:そうなんです。それまでも会議や宴会などで利用していただくことが多かったスペースですが、2021年に選出されてからはより増えましたね。
——どのような旅館に今後していきたいですか?
佐藤さん:「いかに次の世代につなぐか」がテーマです。今年の春から長男が調理師専門学校に進学し、料理の勉強を始めました。「ゆくゆくは店を継ぐ」という話を聞いたときは本当にうれしかったし、全力で応援したいと思いました。
彼が何年後かに戻ってきたとき、“自分の表現したいものを実現できる環境”を提供したいですね。
【旅先の我が家 登喜屋旅館】
住所:胎内市西栄町6-21
電話:0254-43-2201
公式ホームページ:www.tokiyaryokan.com
公式Instagram:@minoru_ty
息子さんが継ぐ時が楽しみね♪