プロフィール
渡辺 亮: 1977年生まれ、新潟市江南区出身。父親が設計事務所をしていてその影響で建築の道へ進む。東京の大学の建築学科で学んだ後、新潟市内の設計事務所、住宅会社での勤務を経て、2013年実家である昭設計に入社。その後、「サンカクノイエ」を展開している。
迷うことなく建築の道へ
――渡辺さんの生い立ちや経歴について教えてください。
渡辺さん:1977年、新潟市江南区で生まれ育ちました。新潟市の高校を卒業後、大学へ進学し、建築学科で学びました。元々、実家で父親が設計事務所をやっていて、幼い時からその姿を見ていたので自然と設計の道へ行きました。気づいたら設計に染まっていましたね(笑)。高校時代、数学や物理は苦手だったのですが友達と離れて一人だけ理系に行きました。その頃には既に建築の道へ進む決意が自然と固まっていたのだと思います。大学卒業後は、新潟市にある設計事務所と住宅会社に勤めて、それから実家に戻り昭設計を継ぎました。
――何年かほかの企業で経験を積んでから実家へ戻られたのですね。
渡辺さん: 父親もすぐ入れるつもりはなかったと思います。他で揉まれてこいという感じだったので、それが良い経験になりました。他の会社で働いて学んできた過程で自分がつくりたいものが出てきて、昭設計に入社し自分でやり始めました。それで完成したのがこの「サンカクノイエ」です。
――「サンカクノイエ」の名前の由来は何ですか?
渡辺さん:基本屋根は、三角屋根じゃないですか。シンプルに表現したいなと思って「サンカクノイエ」になりました。シンプルで分かりやすいかなと思います。
――「サンカクノイエ」が生まれたきっかけを教えてください。
渡辺さん:実家に戻るにあたり、自分が目指したいものというか何かお客さんに提案できるものをつくらないとこの激戦区の新潟では生き残れないなと考えていました。実家の隣が空き地だったのとそれまで借り家に住んでいたので、まず自宅をつくり、その家をモデルハウスにしようと思いどんなものが良いかなと考えました。でも、実家に戻り働き始めてからまだ1年程だったので、お金をあまり借りることができなかったんですよね。銀行は1年以上働いていないと融資が難しいので。限られた予算の中で何ができるかというのがテーマでした。自宅づくりがスタートだったので、お客さんが予算で悩むのも自分も経験して理解できました。
大手ハウスメーカーさんがつくるモデルハウスは豪華な内装、最新の設備機器を使用していますが、「サンカクノイエ」の場合は誰でもつくれるような等身大のモデルハウスになったと思います。例えば、「天井に無垢の木の板を張りたいけど予算が足りないな」という場合でも、下地で使うような合板で代用すれば、木の質感を表現できます。あえて合板をそのまま仕上げとして使用することでクロスや塗装の費用が浮きます。これはここに使うものだという固定概念を捨てると難しいかなと諦めていたこともこうしたらできるんじゃないかという工夫で可能になることもありますね。
あえてシンプルにした家づくり
――あえてそのままにする工夫は、見た目もオシャレに感じますね!
渡辺さん:あえて仕上げないのはあまり見たことがないので新鮮に感じますよね。「この素材のこんな使い方もありますよ」とか、「ここには後でお客さんが自分で棚を作れるように合板の壁にしておきましょう」とか、「玄関脇には土間空間を置いて趣味も楽しめるようにしましょう」とか。汚さないようにと自分の家なのに気を使って住むのは疲れると思います。ラフな仕上げで気兼ねなくガシガシとイエを住みこなして貰いたい、そういう想いで「サンカクノイエ」をつくっています。
家によってはとてもラフにつくっているところもあり、展示会に来られる方にはこれで完成ですか?とよく言われます。自信を持って完成です!と言いますけどね。正確に言うと、住みながら自分たちでDIYをして完成させていくという考えです。きれいに出来上がった新築は引き渡して完成となるとそこから劣化するだけになってしまうので寂しいですよね。それがあまり好きではなくて。現場途中感のほうがこれからどうなるのかというウキウキ感があって良いと思います。私は工事途中の空間が好きなんです(笑)。
――「サンカクノイエ」は見た目もとてもシンプルですよね。
渡辺さん:素朴だけど使っていてちょっと心地良いような感覚の家をつくりたかったんです。シンプルな形と色合いなので、それが何年経っても飽きのこない家なのかなと思います。デザインには流行り廃りが有ります。時が過ぎるとその頃はかっこ良かったデザインも飽きてしまう。いつまでも変わりなくさりげなく気になる感じのデザインが私は好きですね。
また、「サンカクノイエ」は構造・性能・コスト・空間・メンテナンスの部分でもシンプルなのでメリットが大きいと思います。複雑な形状のプランにすると柱や梁などの構造材も複雑で部材も大きくなりがちですが、「サンカクノイエ」は形状がシンプルなので均等に構造材を配置でき、構造材のコストを抑えやすいんです。その他資材のロスもシンプルな形状なので出にくいですね。
断熱面も建物の隅角部から熱のロスがしやすいのですが、「サンカクノイエ」だと隅角部が最小限に抑えられてロスが少なくなります。
なんといっても「サンカクノイエ」の最大のメリットは、屋根の部分にできた空間を”ロフト収納”として利用できることです。収納をつくりたいとお客さんからの要望はよくあるのですが、収納スペースを造りすぎると生活感が出て、その分スペースも潰れてしまいます。まとめて収納できるような大きなロフトをつくることで居住空間が物で溢れず、すっきりと過ごせると考えています。あとは、リビングが2階にあることが多いので、そうすると勾配天井も可能です。同じ広さでも天井が高い分ゆったりとより広さを感じることができます。形状がシンプルなので外部の足場も掛け易く、外壁や屋根のメンテナンスもしやすいと思います。
――見た目だけでなく機能面もシンプルなのですね。
渡辺さん: デザイン面はもちろん機能面でもよく考えていて、コストは常に意識しています。それはやはり限られた予算内で家をつくったという自分の経験からだと思いますね。私は釣りが大好きで趣味でやっているのですが、その趣味が住宅ローンでカツカツになって出来なくなるのは違うと思うんです。デザインや性能に過剰に予算をかけて、住むことは快適になっても趣味もできなくなるような生活になるのは快適とは思いません。安全な構造、快適で生活を送れる断熱はもちろん確保しますよ、大前提として。
建築は普通壁をつくる、間仕切るところから考えると思うのですが、私はどちらかというとなくても困らないものを“削ぎ落とす建築”を意識していると思います。例えば子供ができて部屋が必要となれば、大きい空間さえあればつくれるわけです。だから今の状況に一番合っている住み方で使ってもらうのが良いと思います。空間が大きければ色々できますが、最初から壁があるとその壁が構造的に必要で取れなくなっていたりもします。それであれば、なるべく家の空間は広くしておいて後で仕切れたり、ホームセンターに売っているような材料でお客さん自身がDIYで手を加えていじれる家をつくりたいです。その方が楽しいし、自分の家に対する愛着がもっと湧きますよね。後から変えられる、可変性が家には必要かなと思います。
――「サンカクノイエ」には、渡辺さんのこだわりがたっぷり詰まっていますね。
渡辺さん:だからこそ、何でもできますと言うのは逆に弱いと思っています。ひとつのものをこだわってどんどんより良くなるように。お客さんもそこを信頼して来てくれているので、こうしましょうと言わなくてもほとんど同じ形、同じ色合いになります。施主O Bさん達も「サンカクノイエ」が増えると喜んでくれますね。「あそこにもできましたね」とか、「あそこの家は渡辺さんですか」とか、「サンカクノイエ」が色々な場所に建つとそれをお客さんが見つけて連絡をくれます。たまに違う会社が作った物もありますけどね(笑)。
――O Bさんはどんな方が多いですか?
渡辺さん: 「サンカクノイエ」に住む方は同じように色々な趣味を持っている人が多いと思います。仕事も趣味も思い切り楽しむ。そしてそのライフスタイルに共感してもらったお客さんが来てくださる。だから、趣味が仕事にも間接的につながっているのかもしれませんね。
「サンカクノイエ」へのこだわり
――渡辺さんが経営で大切にされていることは何ですか?
渡辺さん: 経営とか難しいところはあまり考えないのですが(笑)、“ぶれない”ということを重要にしています。お客さんの中には「サンカクノイエ」ではない、四角い箱型の家をつくりたいという方もいるんですよ。形ではなく素材感や土間空間の感じとか、ラフな感じが好きで来てくださる方もいたりするのですが、あくまでも「サンカクノイエ」にこだわっていて、「サンカクノイエ」以外はあまり受けないようにはしています。自信を持ってこの形で勧めているので、経営上のポリシーとしてここは大前提としてぶれたくないなと思っています。
――お客さんやスタッフとの、印象に残るエピソードを教えてください。
渡辺さん: 実はスタッフの北川さんが「サンカクノイエ2」のOBさんなんです。自宅をつくった後の初めてのお客さんです。初めて展示会をした時の最終日に来てくれて、その日に決めてくれました。私は打ち合わせが入っていてその場にはいなかったんですけど(笑)。今年から一緒に働いてもらっています。北川さんはディスプレイのセンスがすばらしく、とても上手なので以前から展示会の飾りつけもお願いしていて、それが働いてもらうきっかけになりました。写真に出ているようなディスプレイは全部北川さんのセンスなのですが、それがとてもサンカクノイエに合っています。また、実際にスタッフが「サンカクノイエ」に住んでいるっているのは良いですよね。お客さんの安心感もまた違うと思います。
北川さん:私が一緒に働いていて思うのは、渡辺さんは利益よりもお客さんの要望により沿った家づくりをしていると思うんです。
渡辺さん:そうですね。利益はもちろん大切だし最低限はきちんと頂きます(笑)。ただ、広告をあまり出さないので広告費もかけないですし、人件費も人数少ないから安いわけで、その中でお客さんに還元できるところといったらお客さんの要望により沿うことですよね。それでお客さんに喜んでもらえれば、北川さんのように紹介してくれる方もいらっしゃいますし、それが広告にもなっているのかなと思っています。
北川さん:たぶん他の企業だったら経営する上で利益を優先するところもあると思うんですけど、渡辺さんはお客さん第一優先と考えてるところがすごいと思います。当たり前だけどなかなかできないですからね。
――渡辺さんのお人柄の良さもお客さんには伝わっていますよね。
渡辺さん:ありがたいですね。今もこんなラフな格好ですが、実際打ち合わせに行く時もこんな感じです。そこで着飾るのはなんか違うなと思っていて、美容師の方はスーツ姿で髪をカットしないじゃないですか。お客さんはそういうところも見ていると思うんです。服装が同じ雰囲気だったり、好きなものが似ていたりすると「感覚が近いのかな」と感じてくれていると思います。どうしても大きな買い物なので、構えることなく気軽に話を聞きに来てもらえればと思っています。
家を住むだけの空間から遊びの空間へ
――最後に渡辺さんの今後の展望を教えてください。
渡辺さん:前からやりたかったんですけど「サンカクノコヤ」をシリーズとして展開したいです。外に物置が欲しいけど既製品の物置でなかなかいい物が無いという方も結構いて、お客さんから「“三角の小屋”をつくらないんですか」という声もいただきます。それで今、1軒つくっているのですが、それが良ければ今後、家を建てる時に一緒につくることでもっと安くできますし、「サンカクノイエ」との組み合わせとしてもっといい雰囲気になると思います。
あとは、事務所社屋の小屋をつくりたいです。O Bさんが事務所へきやすいように、少し大きめの「サンカクノコヤ」をつくって、そこに現場で残った材料やDIYの道具を置いて、自由にDIYをしてもらう、そんな空間をつくりたいです。そうすれば、OBさんと顔をあわせる機会も多くなりますし、お互いにとって良いかなと思います。
あと現在、仲の良い設計事務所さんとコラボした家を計画中です。歳も近く兄弟でやられている設計事務所さんがいて一緒にやろうよと声を掛けたら乗ってくれたので、その家づくりも進めています。今まではライバル同士のはずの同業他社さんと逆に手を組んでもっとより良い物を作れるようにと新しいことにもチャレンジしています。
――今後の展望が盛りだくさんですね!
渡辺さん:このコロナ禍で家にいる人が多いですよね。家が住むだけの空間から成長していかないといけない気がします。家に居る時間が増えて、楽しい空間というか、楽しいことができるような空間にしてく工夫が必要になってくるのかなと思います。
――モデルハウスはいつでも見学可能ですか?
渡辺さん:連絡をもらえれば自宅兼事務所なので生活感がありますけど、いつでも見に来てくださいという感じです(笑)。実際、物が置いてあったり住んでいるところのほうがイメージしやすいと思います。「サンカクノイエ」のような家が好きな人は自然に来てくれると思うのですが、逆に「サンカクノイエ」を知らない方にも、それが良い悪い、好き嫌い、別にしても色々見て決めてもらうのが1番良いと思います。以前、100~200件程モデルハウスを回っていたお客さんがいて、いろいろな所を回っているうちに何が良いか分からなくなったと。そこでシンプルなのが一番だとなって「サンカクノイエ」に決めてくれた方もいました。こんな家もあるんだなと感じていただければと思いますので気軽に遊びに来てください。
【写真左:北川さん(昭設計スタッフ) 右:渡辺 亮さん】
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【有限会社昭設計】
住所:新潟県新潟市江南区天野1-20-6
電話:025-280-3933
「サンカクノイエ」素敵なお家ね~こんな家づくりもあるなんて勉強になったわ!