プロフィール
安部恭朗(アンベヤスオ):新潟市出身。5歳の頃に両親が20坪足らずの小さいお店(東横)を始める。こどもの頃にはお店のカウンターで宿題をしたり、手伝いをしながらいつも両親の背中を見て育つ。高校卒業後は関心のあったテクノロジーを学ぶため、東京の大学へ進学。在学中のアルバイトで接客の奥深さに気づく。卒業後は実家に戻り、25歳で家業である東横を継ぐことを決意する。37歳で代表取締役に就任。2021年8月には東横愛宕店を「みやたこです。もじや新潟愛宕店With東横」としてリニューアルオープン。新しいことに取り組みながらも新潟のご当地味噌ラーメン店としてこれからも日々進化を続ける。
両親の店を手伝う幼少期
――東横はいつスタートされたのですか?
安部さん:両親が現在のラーメン東横駅南店の場所で「東横」を始めたのが昭和58年のことです。当時は新潟駅南口から伸びる弁天線もまだ2車線、手入れのされてない空き地を脇目に、一方通行の路地を入ったような場所で立地はあまり良くなかったです。オープンからしばらくは泣かず飛ばずの売上だったと聞いていますが、“極太麺の濃厚味噌に割りスープ”という強烈なインパクトで徐々にファンが増えていったそうです。創業して10年経った頃に「テレビチャンピオン」という番組のラーメン王選手権に取り上げていただいたり、地元メディアでもラーメンを後押しするブームが生じ、それをきっかけに人気店となった記憶があります。
――人気店を営むご両親の姿を見てきたのですね。
安部さん:朝から晩まで毎日疲れ果てる両親の背中を見てきました。また、気持ち的な苦労も多く、近所の住民の方からにおいに関する苦情や、車で来店される方も当時から多かったので駐車場を確保することにも苦心していました。店が忙しいと自宅で一人ずっと留守番をして寂しさを感じることもありましたが、今でこそ「ラーメンを作るだけでなく親も親なりに色々な面で大変だったんだな」と感じています。高校くらいになる頃には、父親もそういったラーメン屋の大変さから「お前の将来は自由に選びなさい」とテクノロジーを学ぶために東京の大学へも行かせてくれました。「いつか世の中を便利にする商品の開発に携わり、テクノロジーの力で人々の幸せを形作る一助になりたい」と思っていましたね。
より世の中を便利にしても、それが人を幸せにすることとはならない
――家業に戻ったきっかけを教えてください。
安部さん:現在の紫竹山本店のオープンの際に両親から「店を手伝ってほしい」と頼まれたことがきっかけです。東京で就職して生活する気でいた自分にとっては、あまり乗り気ではなかったのですが、手伝いで何度も通ううちに「東横を継ぐことになりそうだな」と思い始めました。テクノロジーを学ぶことは楽しかったですし、今でも自分用のPCは自作で作るくらい好きなのですが、東京での暮らしの中で接客業の奥深さにも気づいたんです。
――東京で学んだことを活かそうと考えられたのですね。
安部さん:東京の飲食店事情は、言うに及ばず激戦区で非常に入れ替わりが激しいのですが、その中で勝ち続けているお店がたくさんあります。そのようなお店は必ずと言っていいほど“接客サービス”が素晴らしいんです。学生生活のアルバイトの時に、お客様と接した中でのとある出来事がきっかけで、「テクノロジーでどれほど生活を便利に豊かにできたとしても、それで人を幸せにできるわけではない。人を幸せにできるかどうかは接する人なんだ。」という一つの気づきがあり、「どうやら自分の価値観だと技術開発に進む道よりも元々家業でやっていた飲食業の道を進む方が自分の肌に合っている」と東横を受け継ぐことを決めました。
愛され続けるために変わり続ける
――2代目に就任されてから変化はありましたか?
安部さん:濃厚なスープ、濃い味噌、極太の多加水麺、割りスープ、と東横の軸となる部分こそ不変ですが、それ以外は商品管理から店舗管理まで変化しかなかったです(笑)東横の味や接客などは、それこそ物心のついたころから両親を見ていたので割と意図せず普通にできました。ただ自分がやる分には良かったのですが、人に任せるという部分が中々上手くいきませんでした。情報の伝達が早い今の時代においては、新しいことが一時上手くいってもそれはすぐに陳腐化して飽きられるので、絶えずスクラップアンドビルドの繰り返しです。打率と一緒でたまにヒットを打つくらいでうまくいっていないことのほうが多いんじゃないでしょうか。今でも日々勉強中です(笑)
――イベント出店にも力を入れていますよね。
安部さん:そうですね。今でこそコロナ禍の影響でイベント開催の見通しが立っていませんが、以前は地元のラーメンイベントだけでなく、東京ラーメンショーのような大型イベント、百貨店の催し物など全国のイベントに大小関わらず積極的に出店していました。新潟は“ラーメン処”だと全国に広く認知していただきたいという想いもありますが、個人的にも私自身がイベントに参加することで他の出店店舗の店主さんと意見や情報を交換し合いながら勉強できることも多く、ライバルなんていうとおこがましいのですが、同業の方々の意見や姿勢、考え方などとても多くの刺激があります。
――より良いお店にするために、情報収集やチャレンジをされているのですね。
安部さん:いつも思うのは「現状維持をするだけの努力しかしていなければ、その先は衰退しか見えない」ということです。加えて、現代の価値観は時間とともにめまぐるしく変化し続けるため、どんなに忙しくても経営者は時代の変化に敏感にならなければなりません。最新と思って取り組んでいたことが、早ければ1年もしないうちに古い常識になります。例えば衛生基準に対する意識、外食に伴う人の動向、外食に求められる期待、食品の味の変化に伴う顧客の味覚の変化など、常に調整をしても何がより良いかはわかりませんが結局残ることができれば正解というだけのことで、やってみなければわかりません。変化に向き合わなかったり失敗を恐れてチャレンジを躊躇していれば淘汰されてしまいます。それは昨日今日できたばかりのお店であっても何十年続く老舗であっても。最近は特にそんな緊張感を持ちながら経営に臨んでいます。
ラーメン屋でたこやきが無料!?
――東横愛宕店を「みやたこです。もじやWith東横」にリニューアルした経緯を教えてください。
安部さん:長く続いたコロナが仮に沈静化することができたとしても、しばらくはニューノーマルの生活スタイルの余韻は残ると想定しています。そこで、今後夕方以降の集客をどうしようか課題に感じていたところに宮迫さんのYouTubeチャンネルを見て、「ラーメン屋でたこ焼き?しかも無料!?」と意外性があり、これは面白そうだと思いました。愛宕店は空間が広く、席数も多いので夕方以降は席にもたくさんの余裕があります。これを活用することで場を提供することができるなら面白いと思ったんです。それも食のアンバサダーやご自身のチャンネルで有頂天レストランという食の企画をされている宮迫さんがプロデュースするならなおの事。実際にこのタコ焼きもまずは何もつけずに素で召し上がってみていただきたいです、誤魔化しの無い旨さがわかりますから。
――確かに「ラーメン屋がたこ焼き!?」という意外性が抜群ですよね(笑)。
安部さん:そうですよね。ラーメンのようにたこ焼きが嫌いな人ってあまり聞いたことがないですし、家庭で準備すると手間ですが、試行錯誤しながら焼く過程が割と楽しいじゃないですか。最近の外食は、コスパや時間的な効率などに偏りがちだと少し気になっていたことがあったんです。私たちが外食に求める根っこの部分は、思い出や体験だったりがあったと思うんです。「少し特別な日に家族で外食した楽しい思い出」や「気の合う仲間と他愛もない恋バナでもしながら時間を潰したあの日」のように思い返すと思わず微笑んでしまうような(笑)。美味しいたこ焼きを焼きながら、そんな時間と空間を提供できるなら、やる価値があると思ったんですよね。締めに濃厚味噌ラーメンも食べてもらえたら、それはとてもプライスレスな時間を過ごしてもらえると思います。
――おうちで「東横」のラーメンを楽しめる通販事業もされていますよね。
安部さん:店の味をそのまま冷凍しているので「家庭でお店の味を楽しめる」とありがたいことにコロナ前より多くのご注文をいただいていますが、冷凍のお取り寄せラーメンには課題もたくさんあります。麺もプロ仕様のためインスタントラーメンのような手軽さがなく、作るときにはスープ温め用と茹で麺用に鍋が2つ必要だったり、作り手にかける手間があります。そこも含めて価値のあるものを提供はさせていただいていますが、その価値がお客様に伝わるような工夫やその手間すら楽しんでもらえるような仕掛け、もっと手軽に味わっていただけるよう商品改良、専用の調理器具の開発などを模索していきたいですね。
――最後に、これから挑戦したいことを教えてください!
安部さん:タイでHondaと言ったら原付を指すように、世界で「Touyokoと言ったら“味噌ラーメン”」と言うくらい世界に発信することができたら、それは私にとって一生をかけてこの業に取り組む価値のある面白いことだと思っています。特に発酵文化の根強い欧州では異国の菌が入ってくることを厳しく阻止するため、発酵食品を持ち込むハードルは非常に高いのですが、機会があれば今世界に広がっているラーメンブームに乗って海外出店も視野に入れています。これからも少しずつ少しずつ味を変え、日々自分が心から美味しいと思える最高のものを引き出していきたいと思います。「人生はトライ&エラー!」仕事もプライベートも挑戦を怖がらず、前向きに取り組んでいきます!失敗するのは当たり前、そこから新たに学び変化し続けることが大事だと思っています!
【みやたこです。もじや 新潟愛宕店 with 東横】
住所:新潟市中央区愛宕2-2-3
電話:025-282-2838
営業時間:11:00~22:00
定休日:不定休
長く続けるための変化も大切なんだな~みやたこです。にも行ってみたい!