プロフィール
白崎 純也:千葉県生まれ、弥彦育ち。5年の会社員生活を経たのちに、江戸時代から続く弥彦の老舗旅館「四季の宿 みのや」の十七代目館主となる。温泉街全体の活性化に向けた企画を次々と立ち上げ、2ヶ月5,000円で温泉入り放題の定額サービス「温泉サブスク」を2020年7月から開始したことで話題を集めている。
様々な人と接することができる旅館業の素晴らしさ
――白崎さんの生い立ちについて教えてください。
白崎さん:私は昭和47年に千葉県我孫子市で生まれ、幼少期に両親の離婚で2年ほど母方の実家である我孫子市に住み、それ以降は弥彦で育ちました。小学生の頃は夏休みや冬休みになると我孫子の祖父母の家に遊びに行くのがとても楽しみでした。祖父母が熱心なキリスト教信者だった事から教会で行われるバザーにも連れていってもらい、たくさんの方々から親切にして頂いたのを覚えています。
そのような環境で祖父母から教わった「自分の周りにいる全ての人たちに感謝をする」という教えを胸に人生を送っています。プライベートも仕事も自分ひとりで出来る事は限られていますので、周りの人たちのご指導やご協力無くして今の人生はあり得ないと実感しています。
――どのような経緯で「みのや」を継ぐことになったのでしょうか?
白崎さん:前職は会社員で約5年営業の仕事をしていました。他にやりたいことが見つからなかったのですが、毎日働く中で自分には接客が向いていることが何となく分かり、そのタイミングで父親からそろそろ戻ってこないかと声を掛けられたことがきっかけです。旅館のようなサービス業は、赤ちゃんから年配の方まで性別や職業、住んでいる地域に関係なく接点を持つことができる素晴らしい業界だと改めて感じますし、これまで出会った方々に少しでも恩返しをしたいです。
――「みのや」の歴史や魅力を教えてください。
白崎さん:みのやの創業は江戸時代の元禄年間1701年、私で十七代目となります。先祖は尾張国の出身で、美濃平野にちなんで「みのや」という屋号をつけたそうです。彌彦神社の神様である天香山命(あめのかぐやまのみこと)は元々和歌山県の熊野にお住まいで、神武天皇の命を受けて越の国を開拓されたと伝えられています。ご縁あっておやひこさまの門前に宿を構えて300余年、越後の豊かな食と自然、そして神の湯で旅する方々をお迎えしてきました。
弥彦山を望める展望露天風呂と、彌彦神社の杜の景色が広がる展望レストランでの60種類以上におよぶ朝食バイキングが人気です。バイキングは現在休止中ですが、今後の状況を見極めながら再開判断をしていきます。また当館は新潟県内でも珍しい「市場の競り権」を保有する宿で、新鮮で貴重な食材を優先的に仕入れる事ができます。
新しい試みに挑戦して若い世代を呼び込む
――経営上、大切にしていることは何ですか?
白崎さん:【弥彦】の魅力を【総合】的に【開発】し、地域活性化の中心となる宿を目指すことを経営理念としています。「また来たいね」とお客様から言ってもらえる宿をスタッフ全員でつくり、そのスタッフ全員も「みのやで働いて良かった、自分も泊まりたい」と言えるような宿にしたいです。
地域を活性化したいということが常に頭の中にあり、弥彦観光協会で色々なアイディアを提案させて頂いています。今でこそパワースポットという言葉はメジャーになりましたが、まだ浸透していなかった10年前に「パワースポットプロジェクト」を立ち上げて彌彦神社をPRしたこともあります。その時は我々地元民も彌彦神社について知らないことが多く、自分たちで勉強会を開き、お客様に魅力を伝えようとパンフレットも作成しました。昔はお年寄りの参拝客がほとんどでしたが、お陰様で今では縁結びスポットとしてカップルの姿も増えました。
――弥彦の活性化のために尽力されてきたのですね。
昨年、温泉街の飲食店が参加した「やひこ湯上りバル温泉街」というチケット制のはしご酒イベントを開催しました。夜は地元のお店で食べたいということで、旅館で夕食をとらないお客さんが最近増えています。周辺に飲食店がないと我々にとっても死活問題になるので、近隣のお店の方々と一緒に頑張っていきたいです。
街全体で新しい取り組みを始めた結果、弥彦の外から来た若い方や会社が新しくお店を出してくれるようになりました。今ではパン屋さんやカフェ、洋服店などが少しずつ増えて楽しい弥彦になりつつあります。
――今後考えている企画はありますか?
新潟県出身のスパイス料理研究家である一条もんこさんと弥彦の旅館組合によるカレーの企画を立ち上げました。今後は各旅館やお店がカレー関連の料理を提供していくことになると思います。また9月上旬からは燕三条イタリアンBitさんと当館でコラボ企画を実施します。夕食はBitさんで夜はみのやに宿泊、またはみのやで1泊して翌日の朝食か昼食をBitさん、というプランをスタートします。この他にも実現したい企画はたくさんありますね。
お客様やスタッフの温かい言葉
――お客様との印象に残るエピソードを教えてください。
白崎さん:最近の話ですが、新型コロナウイルスで当館が苦境に立たされていた時、県内のお客様がいち早く支援を兼ねてご宿泊や日帰りのお食事に来てくださった事です。中越地震や中越沖地震、東日本大震災など同様に危機的状況になった時にも多くのお客様に助けて頂きました。時には大きなクレームを頂戴して私自身がお詫びすることもありますが「社長があの時親身になってくれたからまた来たよ」と言って当館に再訪してくれた時は本当に嬉しかったです。
また随分前ですが、宿泊した女性グループ客の中にアロマセラピーにハマっているという方がいらっしゃいまして、そのお客様に宴会場で突然マッサージされた出来事は今でも忘れられません(笑)。それがきっかけとなり、新潟市のエステサロン「トプカピ」さんに協力頂いて、アロマセラピーを受けられる予約プランを作ってみたこともありました。
――スタッフとの印象に残るエピソードはありますか?
コロナ禍で営業自粛を余儀なくされていた際、あるスタッフから「経営が厳しく、もしも従業員を解雇する事になったら自分はまだ独身なので優先して解雇して下さい」と夜中にメールがきて涙が出ました。その後、私からは全ての従業員に対して現在の経営状況を伝えると共に全員の雇用は守る、という内容の手紙を送りました。
スタッフとは年に一度研修旅行で県外の旅館へ行くのですが、夜の宴会でお酌に来る際、普段は言えない思いの丈をここぞとばかりに伝えてきてくれます。私にとっても楽しみなイベントです。
地元の方も観光客も楽しめる温泉街を作りたい
――温泉の「サブスクリプション」を立ち上げた経緯を教えてください。
白崎さん:今まで経験したことの無いコロナ禍の中で、日頃からお世話になっている方々に対して何が出来るのかを休業期間中に考えました。そこで出たアイデアの一つが「温泉入り放題」のサブスクです。新型コロナウイルスの影響で自粛生活が長引き、日常生活の様々な制限で皆様が心身ともに疲弊している中で、まずは県内の方々へ日頃の恩返しの気持ちを込めて企画しました。新聞にも取り上げられたことで結構な反応があり、地元や県央エリアの方を中心に購入頂いています。毎日来られる方もいらっしゃいますね。
――今後、挑戦したいことはありますか?
白崎さん:弥彦温泉は、越後一宮彌彦神社の門前に栄えてきました。圧倒的なランドマーク的存在の彌彦神社が佇むという「地の利」を活かした温泉街の活性化に取り組んでいきたいです。今後の少子高齢化や温泉街の空き店舗問題を回避するのは難しいですが、温泉街の中で訪れた観光客や宿泊客の皆様が楽しく過ごせるような店舗づくりにもチャレンジしたいです。
【四季の宿みのや】
住所:新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦2927-1
弥彦の街がどんどん盛り上がりそうね!