鳥屋野潟と深く関わることから始まった「潟マルシェ」。マルシェになるまでの経緯や、展開している地域ブランディングの活動について松浦柊太朗さんにお話をうかがいました。
プロフィール
松浦柊太朗:新潟市出身。東京の大学を卒業後、デザイン会社の株式会社U・STYLEへ就職。現在はデザイン業務・ディレクションに携わりながら、「潟マルシェ」「里山ボタニカル」など地域との取り組みに力を入れている。
昔から身近にあったデザイン
――なぜ、U・STYLEに就職したのですか?
松浦さん:クリエイティブなことでモノやコトの価値を発信したい、という思いに挑戦できる場があったためです。
――そう思ったきっかけはなんですか?
松浦さん:この会社の社長が母ということもあり、昔からデザインの仕事は近くにありました。大学時代は本気でサッカーをしていたのですが、その時に大学サッカーの大会PRや運営の取り組みの一環で、美大生とデザインプロジェクトをやったこともデザインの面白さに触れた体験の一つです。また、住んでいた下北沢がサブカル・演劇・デザインと密接で、毎日触れていたということも重なって、クリエイティブな業界に挑戦してみたい気持ちが生まれました。
鳥屋野潟に眠っている価値に光を当てたい
――「鳥屋野潟」に関わるようになった経緯について教えてください。
松浦さん:2012年から毎年1冊『潟ボーイズ』という鳥屋野潟の語り継ぎ本を作っています。地域の暮らしや、昔のことを知っているおじいさんに話を聞いた内容をまとめた冊子です。地元のおばあさんに話を聞いた『潟ガールズ』もあります。『潟ボーイズ』や『潟ガールズ』を通じて、かつての鳥屋野潟の美しさや、人と潟の豊かな繋がりと営みが見えてきて、鳥屋野潟にはもともと素晴らしい資源や価値があると気づき、それをつないでいきたいという思いが生まれ、より深く関わっていきました。
また、『潟ボーイズ』を読んだ小中学生が鳥屋野潟に関心を持ってくれたことで、地域学習の取り組みなどで鳥屋野潟に関わる活動をはじめてくれました。2018年には地元の中学生を『潟ボーイズ』で特集しました。語り継ぎをきっかけに、次世代の活動にまで広がりが生まれています。
――なぜマルシェになっていったのですか?
松浦さん:鳥屋野潟には地域の資源、眠っている価値があるのではないか、ということでそれを掘り起こして、光がしっかりと当てられていないものや地域の魅力、資源をデザインで磨いて発信するというところから「潟マルシェ」はスタートしました。はじめはU・STYLEを会場に開催し、今では作っている職人が極わずかの新潟の郷土玩具である”三角だるま”とコラボをして『潟のしずく』を作ったり、福祉作業所さんで作っている焼き菓子のパッケージをオリジナルデザインにするなど、コラボレーションをしていました。
――「潟マルシェ」初回開催から現在まで、変化はありましたか?
松浦さん:最初はご近所さんや知り合いが来る程度でしたが、色々なきっかけがあり、いくとぴあの裏側にある鳥屋野潟公園内の一部を”ユスリカの森”と名前を付け、そこを会場に変更しました。そこからマルシェが広がっていきました。会場の雰囲気や心地よさ、出店数の増加や出店者の魅力、自然観察や舟などのアクティビティ、メディア掲載や口コミ、デザイン性など、様々な要因が重なり少しずつ来てくれるお客さんが増えていきました。
特に私達が伝えたいことに共感してくれて、出店者の人柄や魅力、作るものに惹かれてくるお客さんが増えたこと、あとは「鳥屋野潟に船で出られるんだ!」「鳥屋野潟公園の中にこんな気持ちの良い空間があったのか!」と新しい価値に気づいてくれる人が増えたのが嬉しいですね。
松浦さん:2018年までは「鳥屋野潟の水辺を楽しむ」漠然としたコンセプトから「エシカル&クラフトライフマーケット」にアップデートしました。これからは楽しみながらも暮らしの中での環境・社会・地域ローカルに目を向けた選択をしていくことが大事なのではないか、ということを提案できる場になれば良いと思っています。
また、無肥料・無農薬などで植物を育てる自然栽培の農家さんとは、イベントが始まった当初からご一緒していますが食文化や人の健康などを考えている方がたくさんいます。暮らし方の提案として、新潟の自然栽培の食があったり、ローカルな人や店があったり、自然や季節を楽しんだりなど新潟のこんなものを暮らしに取り込んだら豊かだとか、こんな人と出会ったら楽しいとか、自然や季節を感じたら心地よいとか、潟マルシェは「新潟らしい暮らし方の提案の場」にしたいですね。実際に来てみると吊ってあるハンモックに揺られてみたり、キッチンカーがあったりハッピーな空間ですが、実はベースにはそういう想いがあるということを、何かのきっかけで感じていただければ暮らしの選択肢が増えると思います。
――潟マルシェは親子連れのお客さんも多いですよね
松浦さん:そうですね。親子で子供の食べるものを買いに来たり、普段の生活の中で子供が自然の中でゆったり過ごせる場所が無いこともあり、潟マルシェではのんびり過ごしてくれています。鳥屋野潟の自然をめぐる小さな旅をしようをテーマに「NatureTrip(ネイチャートリップ)」という自然観察会を毎回行っていて、鳥屋野潟公園の管理人さんが季節に合わせたガイドをしてくれます。今では子供に大人気のイベントで、一緒に参加している親も楽しく学ぶ体験ができます。2019年からは二十四節気をテーマにしていて、季節ごとの鳥屋野潟・食を楽しめる場になってほしいし、そういうものを感じ取りながら暮らせたら豊かだと思って提案しています。
里山の素材を生かして地域の良さを発信する「里山ボタニカル」
――「潟マルシェ」の他にU・STYLEで取り組んでいることはありますか?
松浦さん:今年から里山の素材を生かして価値を高めて発信する「里山ボタニカル」という取り組みを始めました。社長がミラノのボタニカルガーデン(植物園)に行った際に、日本では当たり前すぎて目を向けていなかった身近にある植生が研究対象になり光が当てられているのを見て、『日本でも身近な植生やそれが人の暮らしとどう関わってきたかなどに目を向けて、価値を掘り起こしたり、作ったりできるのでは』『地域の課題解決につながるのでは』と考え、里山ボタニカルとして里山の素材や植生を生かした取り組みを始めました。
私は4年ほど前から社長の出身でもある上越の安塚地区でお米作りをしていて、そのお米を使って会社では以前から麹チーズケーキを作っています。季節のものや野にあるものを活かすということで、ふきのとうなど里山にあるものを組み合わせて作り、若い人にも伝わるような商品にして届けることにより、その土地・自然のことを知ってもらえて、良さが伝わり地域の経済として回っていけばと思います。
松浦さん:最近は農家さんとのコラボレーションで、野菜セットや食材も販売するグロサリートラックの出店も始めました。元々はキッチンカーで麹チーズケーキや山ぶどうを使ったスムージーなどを提供していましたが、顔が見える生産者の「確かな食材」を日常的に食べられることは幸せだと感じました。そんな「確かな食材」の豊かさやおいしさを感じてもらえるきっかけを作る食料品店として、ちょっとお洒落だったり、楽しかったりする買い物体験を通じて、その価値を伝えていきたいと思っています。食材・農家さんの魅力・食べ方の提案など、自分達も学んでいきたいです。
――最後に伝えたいことはありますか?
松浦さん:現在は鳥屋野潟と上越をメインで動いていますが、これまでも佐渡に関わるお仕事をしましたし県内外関わらず、いいなと思ったところとは今後も関わりをもっていきたいですね。目先の課題を解決することも大事ですが、どんな未来があったら幸せか、先を見据えた取り組みに挑戦していきたいです。
【株式会社U・STYLE】
住所:新潟市中央区上沼651
電話番号:025-385-7585
「潟マルシェ」をきっかけに鳥屋野潟の価値に気づいた人がたくさんいるんじゃないかしら!子どもたちも自然に触れられて家族で楽しめるイベントなのよね!コロナの影響で7月まで中止みたい・・・9月の開催を期待ね!