プロフィール
山田 秀行さん(やまだ ひでゆき): 新潟市北区旧豊栄出身。新発田高校卒業後、慶応義塾大学へ進学。その後、銀行で勤務する。家業の有限会社山田を継ぐために退職し、現在は代表取締役として「鳥安」、「トラットリアノラ・クチーナ」2店舗、「HARACUCE」を経営している。
地元産の野菜を如何に使うか
――山田さんの生い立ちや趣味などについて教えてください。
山田さん:旧豊栄で生まれ育ちました。高校は新発田高校へ行き、その後、1年浪人し、慶応大学に進学しました。大学卒業後は、Uターンで旧第四銀行へ入行し、4年間勤務した後、家業の飲食業(焼き鳥店鳥安を経営する有限会社山田)を継ぐために退職し、飲食業界に入りました。
――家業を継ぐという想いはあったのですか?
山田さん:恐らくあったと思います。新潟に帰ってくる時点で、選択として家業を継ぐイメージはありました。幼い頃から両親の働く姿を間近で見ていたので、ファミリービジネスに加わることで自分のやりたいことができると思いました。学生時代は文学部だったので、数字や経済の仕組に疎かったんです。世の中のお金の流れについて学びたいと考え、銀行へ就職しました。
――家業は、焼き鳥店だったのですね。
山田さん:地元ではそこそこ人気のお店として営業していました。私も家業に入ってからは、お店で焼き鳥を焼いたり、接客をしていました。後継者が入ると、今までやってないことを始めるので家業は一時的に伸びるんですよね。3年程は売上も右肩上がりだったのですが、競合やある程度やることやっていくと頭打ちになってしまう時期が来て、このままだとまずいなと思い始めました。
――それで試行錯誤されたと。
山田さん:そうです。試行錯誤していた時、大都市圏の繁盛店を視察する中で、新潟の野菜や豊栄のトマトに価値が付加されて提供されていたんです。それを見て、地元産の野菜を使って食べに来てもらう為にはどうしたらよいか、大きなマーケットに出て行けるかとずっと考えていたところから、大きいマーケットからお客様をいかに呼びよせるかという発想に変わりました。それから鳥安でも地元の野菜を売りにして提供し始めました。
――その時のお客様の反応はどうでしたか?
山田さん:それなりに反応はあるのですが、焼き鳥店という業態だと、結局、男性中心の宴会が始まり、話に集中してしまうと、地元産でも何でも関係なくなるんですよね。1つのターゲットとして、野菜や健康志向の女性でランチ需要というところで考えた時に洋食が差別化しやすいと思いました。また、当時、豊栄エリアにイタリア料理店が1軒もなかったんですよね。
――イタリア料理店が1軒もなかったのは驚きです。
山田さん:そうなんです。当時は、スマホやSNSも発展していなかったので、タウンページを全部調べたら、阿賀野川から北には1件もありませんでした。これは、決して食べる人がいないわけではなく、やる人がいないんだと思いました。地元野菜のトマトやナス、根菜類などの食材はイタリア料理とマッチしやすいですし、イタリア料理は意外にも1カ月以内にパスタやピザなど何かしら食べているんですよね。利用動機としてもかなり高いジャンルだと考え、イタリア料理店に決めました。
古民家を使った居心地の良いお店に
――それでオープンされたのが『ノラ・クチーナ』なのですね。
山田さん:正直、私はイタリアンの勉強をしてこなかったですし、イタリアに行ったことはないです(笑)。お店は古民家でやりたいと考えていました。そもそもこの町は北区のくくりでいうと人口7万人程しかおらず、旧豊栄市だと5万人なんですよね。マーケットとしては圧倒的に小さいので、地元の方に親しみを持っていただけるようなお店を作ろうと思いました。
――古民家にこだわった理由を教えてください。
山田さん:圧倒的にマーケットが小さい中で、如何にこの5万人の地域の皆さんに繰り返し来てもらえるかが重要です。そうした時に、子どもからお年寄りまで安心して、親しみを持って来ていただくには、きれいな高級な建物ではなくて、古民家のような落ち着ける場所でやりたいという想いがありました。
――なるほど!それで古民家を選んだのですね!確かに落ち着くお店です。
山田さん:実は、当初は五泉市にある古民家を移築するつもりで、解体して設計図まで作ってもらっていました。場所も現在の場所ではなく別の場所に作るつもりだったんです。準備を進めていた時、地元の先輩経営者の方が来て、「旧料亭の空き店舗があり、そこの庭が荒れて困るからここでやらないか」と言われたんです(笑)。準備の真っ最中だったのですが、この場所で設計し直しました。
――元々は違う場所で考えられていたのですね。
山田さん:そうなんです。ただ、ここでやるとなった時に、幹線道路からも遠く、道も入り組んでおり、隣はお墓ということで、周囲からは「あんな分かりにくいところに…」、「豊栄でイタリア料理を食べる人いるの?」、「焼鳥屋がイタリア料理なんてできるの?」とひどい言われようでした。
――この場所だから良かったということはありますか?
山田さん:お店の表通りでは、毎月1と5の付く日に葛塚市場という六斎市が開催されるんです。そうなると、入り口が通れなくなるので裏からしか入れないので余計分かりづらいのですが、私としては、月に6回農家の方から新鮮な野菜を仕入れることができるので、地産地消のレストランとしてこんなに良い場所はないと思っています。オープン後、しばらくすると、会う人会う人に「場所が良かったんだよ」と言われました(笑)。
職人の手作りにこだわった料理を提供
――「ノラ・クチーナ」は地産地消がこだわりですよね。
山田さん:オープン当時は地産地消が珍しかったこともありました。元々、地元食材を使っているお店はたくさんあるのですが、それをきちんと打ち出しているお店が少なかったんですよね。私の中では、地元の方が普段使いで来てくだされば良いなと思っていたのですが、当時、フリーペーパーasshに地図を入れたオープニング広告を出したんです。今はスマートフォンで調べながら簡単に行くことができるのですが、当時はそこまで普及していなかったので、お店を目指してこられる方のほとんどがasshを手にしていました。
――豊栄以外からもお客様が来られたのですね!
山田さん:そういった方は地元以外の方で、「ノラ・クチーナ」を目指して来られているという事なので、思わぬところでマーケットが広がりました。また、道が分かりにくい古民家というところが、女性からすると人に伝えたくなるお店のようで、1度来られた方が他の方を連れて、再び来てくれることが多いです。
――「ノラ・クチーナ」の名前の由来は何でしょうか?
山田さん:ノラ・クチーナのノラは野良仕事、クチーナには料理という意味があり、豊栄の農作物をおいしいイタリア料理で提供するお店という意味が込められています。焼鳥を焼きながら新事業を悶々と考えていた時期が5年間程あり、その時ネーミングも一緒に考えていました。事業アイデアだけでノート5冊分くらい溜まり、その時出てきた「ノラ・クチーナ」が一番しっくりきた名前でした。
――当時から店舗拡大の目標はあったのですか?
山田さん:ビジネスとして飲食店をやる以上は、働く従業員や地域の雇用創造のためにもある程度規模は大きくしたいという想いはありました。ただ、ノラ・クチーナがお陰様で軌道に乗り、同時期に2店舗出したんです。そのあたりは少し調子に乗っていて、人や資金の問題で大分苦労しました。
――苦労をされてきたのですね。「ノラ・クチーナ」のこだわりを教えてください!
山田さん:地元産の食材を使うことはもちろん、ソースや料理は職人の手造りにこだわっています。ただ、店舗数も豊栄・鐙・月岡と、今夏に長岡店のオープンを予定しています。飲食業は手作りにこだわるほど、労働環境が悪くなるんですよね。その改善策として、セントラルキッチンを導入しました。セントラルキッチンで、パスタソースやピザ生地を一括で仕込み、各店へ届けています。各地で同様の労働力を確保するのは難しいですし、目が行き届かない場所で作ると大分味が変わってしまうので、そこは統一していきます。もちろん、セントラルキッチンの仕込みも職人による手作りにこだわります。
――人材育成で大切にされていることは何でしょうか?
山田さん:特にマニュアルがあるとか、研修をするということはないのですが、“常に心掛ける5つの姿勢”として、「1、顧客視点、2.率先遂範、3.日々改善、4.人格向上、5.社会貢献」これだけは従業員へ伝えています。この5つ目の”社会貢献「お客様・従業員・地域・社会に必要とされる仕事をします」”を企業理念として注力しています。まずはお客様に、次は従業員、店を構えている地域の方に求められるお店でないと永続しない、ということを中心に伝えています。
――経営上、大切にしていることを教えてください。
山田さん:私は2代目ですが、今年鳥安は50周年を迎えます。私が常に意識しているのは、長く続けることです。長く続けられるということは、お店(会社)が世の中の役に立っているということです。鳥安という家業から始まったこの商売を100年続けることが目標です。3人の子どもがいるのですが、まだ、誰も継ぎたいと言わないんですよね(笑)。どういった形であれ、100周年まで繋げたいですね。
次に繋げるまでが私の役割
――今夏オープンされる長岡店は中越エリア初出店ですね。
山田さん:そうですね。このコロナ禍で様々なエリアの空き店舗情報がありましたが、現状、新潟市・下越エリアは、これ以上店舗を増やしてもブランド価値をさげてしまうので出店は考えていません。長岡はここ2~3年リサーチをしていて、一昨年に物件を見つけ、交渉していたのですが、昨年の3月コロナの影響もあり、一旦中止にしました。その後、通りかかった時にまだ空き店舗だったので、再び話を聞いて、出店を決めました。
――なぜ長岡なのですか?
山田さん:長岡店では、もちろん長岡エリアの食材を使用します。お肉や野菜など、非常に良い食材が揃っています。現在、様々な生産者と食材供給について相談していますが、長岡店だけでなく、既存店にも良い食材を共有できます。会社として新潟の食材を広くPRすることも当社の役割だと考えています。
――お客様やスタッフとの、印象に残るエピソードを教えてください。
山田さん:家族でのちょっとしたお祝い事で利用していただけることが多いのですが、今から10年程前、お父さんの退職祝いで娘さんとご両親とで来店されたお客様がいました。プレゼントをあげたり、それだけなのですが、今でも印象に残っています。高級レストランではないのですが、豊栄の町の中で、”家族の大事な日をお祝いできるお店”として認めてもらえたことが嬉しかったですね。日常生活の中でちょっと特別な食卓を過ごせる場所として選んでもらいたいと思っていたので、そういった利用をしてもらえるのがやりがいを感じます。
――最後に、今後の展望や挑戦したいことを教えてください!
山田さん:今夏、中越エリアに初出店し、確実に私の目が今までよりも行き届かなくなる店舗に挑戦します。その為に品質の安定化という点で、セントラルキッチンを同時に起ち上げました。長岡店が仕組みとして上手く稼働し、安定して営業できれば、その仕組みを他エリア、他業態でも応用が可能だと考えます。今年、50周年を迎えますが、次の100周年に向け、事業を継続するためにある程度の事業規模まで成長させ、事業継承できるようにしたいです。従業員、またそのご家族が安心して働ける企業経営にすることが私の責任だと思っています。また、100周年に立ち合うために、今以上に健康でいることも私の最大の責任です。
【トラットリア ノラ・クチーナ豊栄本店】
住所:新潟市北区葛塚市場通り3223
電話:025-387-5200
営業時間:ランチ11:00~14:30(L.O) ディナー 17:00~22:00(L.O21:30)
お店の雰囲気も素敵だわ~地元産の食材を使ったこだわりの料理を堪能したいわ!