プロフィール
寺嶋 聡美(てらしま さとみ)さん(写真右):新潟市南区出身。東京の大学を卒業後、中学校の英語講師として就職。結婚後は、小学校の司書、高校の英語講師を経て、現在は学習塾「シャイニングキッズ」を運営している。
樋宮 真奈美(ひのみや まなみ)さん(写真左):新潟市中央区出身。新潟の大学を卒業後、教育とは異なる分野の会社を経験する。その後、英語講師となり教育現場で働く。現在は専門学校で働き12年目を迎える。
出会いは同じ想いをもって参加した勉強会
――お二人の生い立ちや経歴について教えてください。
寺嶋さん:新潟市南区出身です。大学は東京の大学に行きましたが、戻ってきてからずっと新潟ですね。大学では、教育や英語について学び、卒業後は中学校で英語の講師、結婚後は小学校で司書をしていました。その後、高校講師を経て、今は自宅で学習塾を運営しています。
樋宮さん:私は新潟市中央区で生まれ育ち、大学も結婚後もずっと新潟で過ごしています。大学卒業後は、違う分野の会社を2つほど経験し、英語の講師になり今年21年目です。現在は、専門学校に勤めています。
――英語講師が共通点なのですね。お二人はどこで出会われたのですか?
樋宮さん:そうなんです。長岡市で開催されたイエナプラン教育についての勉強会に、お互い参加者として勉強しに行っていました。
――教育現場で働いていたこともあり、教育に興味があったのですね。
寺嶋さん:そうですね。私は3人の子どもがいるので母親という立場と教育現場で子ども達と携わってきた中で、個性豊かな子ども達と楽しみながら学ぶことに興味がありました。
樋宮さん:私は自身が学生の頃、学校に馴染めないところがあり、日本の教育の形はこれしかないけど、世界には様々あるのではないかということを探る為に参加しました。あとは、今まで”先生の言われた通りに”と言われていた学生達が初めて”自分で思うように”と言われた時に戸惑う姿を間近で見ていたので、幼い頃から主体的にできるような教育方法があると良いなという想いをずっと抱いていました。
まずは大人が変われるきっかけ作りを
――21世紀型教育を考える会にいがたを起ち上げられたきっかけを教えてください。
寺嶋さん:樋宮さんと出会った勉強会で“対話”を経験しました。そこで、対話の素晴らしさを知り、新潟でも対話ができる場所や大人が学び続けられる場所と仲間を作りたいと思ったのがきっかけです。
――21世紀型教育を考える会の名前の意味は何ですか?
樋宮さん:明治維新以来と言われる教育改革が今、進められています。「21世紀型教育」という非認知能力や思考力、主体性などそういうものに目を向けるきっかけになりたいと思い、このネーミングにしました。”今までとは違う教育や学びの形を一緒に考えていきましょう”というメッセージを込めています。
――21世紀型教育という言葉はあまり聞き馴染みが無かったです。
寺嶋さん:そうかもしれませんね。この名前をきっかけに知っていただけたら嬉しいです。21世紀型教育という言葉と共に、学びの選択肢についても広げていきたいんです。例えば、新潟では学校に馴染めないとなった時に学校に行かない以外の選択肢があまりないんですよね。しかし、世界を見ると学びの選択肢が多様にあります。新潟でも、その子に合った自由な学びを選べたら良いですし、私たちも教育の選択肢を活動を通して一緒に考えながら広げていきたいという想いがあります。
樋宮さん:選択肢が一つだけだと苦しいんですよね。生徒や自分の子どもには学びの選択肢がいくつかあると、とても楽になると思います。そういう気持ちが先生として、母親として、両方の面から分かるので視野を広げたいと感じました。
――実際に教育現場にいるお二人だからこその想いですよね。
寺嶋さん:そうですね。学校が合わないと感じると、「自分がだめなんだ」と自己否定してしまう子が多いです。それはとてももったいないなと思いました。
樋宮さん:学校だと点数で評価されることが多く、点数=学力になりがちです。しかし、21世紀型教育ではコミュニケーション能力や相手を思いやる気持ちなど、点数に出ないところを「素敵だよね」と思える大人を増やしたいという思いがありました。まずは、大人が変わらないと子どもも変われないのですが、大体の大人は子どもを変えようとします(笑)。それに気づいてもらうきっかけとして、「21世紀型教育を考える会にいがた」を一緒に気づけるような場にしようと活動しています。
――「21世紀型教育を考える会にいがた」ではどのような活動をされているのですか?
寺嶋さん:2018年6月から活動を始め、DVDを見た後に、テーマを決めてみんなで話しながら深めていく対話会など大人向けに実施しています。最近は新型コロナウイルス感染症の関係でオンライン開催が多いのですが、ゲストを招いた対話会を開催し、全国から60名の方にご参加いただきました。
――どんな方が参加されているのですか?
樋宮さん:当初は子育て世代のママさんが来てくれたら良いなと思っていたのですが、実際に実施するとママさんはもちろん、学校関係の方やフリースクールを開いている方、カウンセラーの方、一般の企業の方も人材育成などに役立つと参加されました。
――参加される方の反応はいかがですか?
樋宮さん:参加される方はリピーターの方が多いです。参加した方からは「他の方の意見を聞いたことで、日常の見方が変わった」とありがたいことに報告してくださる方もいます。
寺嶋さん:教員の方からは「教員同士で教育の話をすることはあったけど、多様な方々と教育について語ることは初めて」という声も聞きました。普段、保護者と先生という立場で話すことはありますが、フラットな場で職業関係なく、教育について話すという場は、様々な視点で考えられて良かったという方が多くいらっしゃいました。
――“対話”がキーワードなんですね。
樋宮さん:そうですね。対話は伝えることと同様に、聴くことも大切にしようとお伝えしています。自分が話せるのは聴いてくれる人がいるからなんですよね。中には人前で話すことが苦手な方もいらっしゃいます。しかし、聴いてくれる方がいるからこそ楽しく対話ができていると思いますね。
対話は“ジャッジ”ではなく、“キャッチ”が大切
――活動は年間どれくらいされているのですか?
樋宮さん:2019年は1年で23回開催し、延べ303人の参加がありました。私たちが主催する対話会の他にも参加された方が主催者となり、私達が呼ばれることも増えました。
寺嶋さん:今は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンラインで行うことが多いですね。オンライン開催も最初は不安だったのですが、全国各地から色々な方が参加できることはオンラインのメリットだと感じました。コロナ前は、地域密着という形で新潟で実施していたので、オンラインでは国も超えて、様々なところと繋がっています。最近では、お休みしていた教育ドキュメンタリー映画『Most likely to succeed」の映画上映会&対話会を再開しました。感染対策をしながら少人数で継続していきたいと考えています。
――子供向けの対話会も開催されているんですよね?
寺嶋さん:そうです。まずは対話できる大人をというところから始めたのですが、当初より子どもにも対話は大切だと考えていました。そんな中、対話をされたママさんから子ども向けにやって欲しいという要望があり、2019年9月に始めました。この時は、遊び場を作るをテーマにまず、大人と子供に分かれて対話をしました。大人が作ってあげたい遊び場と、子供が本当に欲しい遊び場の視点が異なり、アイディアがたくさん出てきてとても面白い内容でしたね。
樋宮さん:初めて実施した時は、民主主義の第一歩だと思いましたね(笑)。みんなにとって幸せな遊び場とは何かを各々が出し合い、みんなで探り合って話し合うということは素晴らしいと思いました。
――子どもも自分の意見を持ち、対話するんですね。
寺嶋さん:子どもたちはこんなことを考えているんだと親御さんがびっくりしていました(笑)。対話は、自分にとって安心安全でないと中々話せないので、始める前にいくつかの約束をします。そのルールがあるからこそ、自由に話せることもあるのかなと感じています。
樋宮さん:対話は、自分と違う考えを「間違っているよ」とか、「正しいとか悪い」とかジャッジするのではなく、そういう考えもあるんだとキャッチすることが大切です。親子での対話をきっかけに、中学生向けなど子どもを対象にした対話の場も増えました。昨年の春からは新潟市西区にある「イロトリドリ」や保育園でも対話会を実施しています。保育園児もしっかり話してくれるんです。先生からは「普段は静かな子がしっかり話をしていて驚いた」など、子どもたちの意外な一面を見て驚いていました。
“対話”を日常の一部に
――参加者さんとの印象に残るエピソードを教えてください!
寺嶋さん:親子の対話に参加してくれた方が自宅での食事の時にある問いを持ってくれたんです。子どもの問いに、お母さんも「なんでだろうね」というキャッチをして、そこから地域の方に対話会をしませんかと投げかけ、地域のイベントとして対話会を開いてくれました。
樋宮さん:参加者も結構いらっしゃいました。疑問に思ったこと、対話でやるという2つがあれば、どこでもできるということがとても実感できた出来事でしたね。
寺嶋さん:子供も大人も主体的になり、繋がりも生まれ、年齢関係なくみんなで学べて分かち合える場ってなかなかないなと思っていたので、とても印象に残っています。
――対話は意識しないとなかなかできないのかなと感じてしまいます…。
寺嶋さん:私も自分に余裕がない時はなかなかできないこともあります(笑)。でも、生活の中でまず相手が言ったことを「そっか、そうなんだね」と、受け止める習慣が付けば、意識しなくても対話が日常の一部になっていくと思います。それが私たちの理想ですね。
樋宮さん:最近思うのは、対話はよく意識高い系と言われることが多く、自分に余裕がないとできないと思うことも私自身もあります。しかし、朝ごはんの時に家族で対話の要素として子どもが何言っても大人がキャッチすることができれば、日常の中に対話を取り入れることができるのかなと思います。対話会に来てくださった方が、自然にそれができれば、穏やかな世界になるのかなと思いますね。
――最後に、今後の展望や挑戦したいことを教えてください!
寺嶋さん:子どもとの対話の機会をもっと増やす為に、保育園や幼稚園、学校、公民館、地域などでの活動をもっとしていきたいですね。対話は年齢関係なくできるので、地域のおじいちゃん、おばあちゃんから子どもまで幅広い世代の方を巻き込み対話をすることで、地域活性化にも繋がると思います。街づくりの一環として取り入れてみて欲しいです。
樋宮さん:挑戦したい事でいえば、企業さん向けに対話会を実施したいです。企業に対しても哲学対話の効果があったという事例があります。チームで何かを決める際の土台に哲学対話があると、人間関係もより良くなるのではないかと思います。あとは、パパ向けもやってみたいですね。パパさんはママ達のようにランチしながら話すこともなく、圧倒的に話す場がないんですよね。まだ、実践できていないので挑戦したいです。
一度”対話”をやってみたいわ!私も子どもたちと参加してみようかしら!