プロフィール
田中洋介(たなかようすけ):千葉県出身。大学進学と同時に上京し、卒業後はオーストラリアへ留学する。帰国後は英会話イーオンとリクルートグループでキャリアを積み、当時の同僚からの紹介でNSGグループへ転職する。2年間のシンガポール出向後、「今代司酒造」に入社し、2年後には代表取締役社長に就任。 退任後の2021年11月に福島潟にて「LAGOON BREWERY」を設立する。
ガタチラスタッフ:『新潟人104人目は「LAGOON BREWERY」代表の田中洋介さん。2021年11月より新たな酒蔵「LAGOON BREWERY」を設立された田中さんの日本酒への熱い想いに迫ります!素敵な笑顔で取材に応じてくださり、ありがとうございました!』
偶然の出会い
ーー学生時代はどんなことをされていたのですか?
田中さん:幼い頃から自然や生き物が好きで、高校時代に「グラン・ブルー」という映画を観てからイルカにはまり、水族館によく行っていましたね(笑)。長期休暇には、沖縄やフロリダの施設でインターンをしたり、東京の水族館で研修を受けたりしていました。
ーー水族館で働こうとは思わなかったのですか?
田中さん:もちろん視野には入っていましたが、自分には向いていないと考えるようになりましたね 。かといって他の業界に就職するイメージも湧かず、就職活動もしていなかったので 、大学卒業後は1年間オーストラリアに行き、フリーターをしていました。帰国後は、インターナショナルな空気に触れつつ、伝える仕事をしたいと考え、 英会話イーオン に就職し、広告宣伝部で3年間働きました。そこで広告業界に興味を持ち、もっと広告に関わる仕事がしたいとリクルートグループに転職しました。そして、求人媒体の仕事をするなかで 、「今代司酒造」と出会うことができました。
ーー求人媒体の仕事が今に繋がったということですか?
田中さん:当時の同僚が「今代司酒造」の親会社であるNSGグループの採用のお手伝いをしていたのですが、その同僚から「新潟にある『今代司酒造』という酒蔵が次期経営者候補を探している」という話を、普段から「酒好き」を公言していた私に教えてくれたことがきっかけです。
ーーそれから「今代司酒造」に転職されたのですか?
田中さん:実はNSGグループとして、すぐにシンガポールに行ける人も 探していた様で(笑)。私としては、海外で暮らしていた経験が活かせますし、いずれ日本酒が世界で羽ばたく上でシンガポールでの経験も重要なものになると感じ、迷わず飛び込みました。 そして、シンガポールに2年間出向し、帰国した2012年に今代司酒造へ入社しました。
昔から好きな場所での出会い
ーー田中さんから見た新潟の魅力は何ですか?
田中さん:人と人との壁をあまり感じないところです。人やモノの交流が昔から盛んだった港町ならではの雰囲気なのかなという印象があります。よそ者扱いされるようなことがないので、ストレスなく過ごせていますね。ただ、冬は寒くて辛いです(笑)。
ーーそんな新潟で「LAGOON BREWERY」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
田中さん:この建物(現在の店舗)との出会いが一番大きいですね。自然豊かな「福島潟」が好きで、よくドライブに来ていました。2021年の元旦に、いつものようにドライブで来た時にこの建物が目に入りました。以前から存在は知っていましたが、妙に気になって中を覗き込んでみるとコンパクトながら酒造りにも適していそうな構造でした。しかも空き家になっていて、貸出の張り紙を見つけたんです。
ーーまさに運命の出会いですね!
田中さん:すぐに内覧し、酒蔵として使うイメージができました。天井が高いので酒造りの環境に適していますし、建物全体の造りや雰囲気が酒蔵にぴったりだと思いました。それから鳥屋野潟や佐潟、瓢湖といった水辺周辺の物件をくまなくあたり、 比較検討を重ねましたがここ以上の場所は見つかりませんでしたね。2021年11月の免許取得と同時に酒造りをスタートし、Shop&Caféは2022年春にオープンしました。
ーー潟の傍という立地にこだわったのですか?
田中さん:そうですね。特にイルカが好きだったように昔から水辺が好きだったので、水辺の景観の良い場所にこだわりました。 海外のワイナリーなどは、景観の良い場所 に多いです。ぶどう畑ありきの立地だからという理由もありますが、対して日本酒蔵は街中にあることが多いですよね。郊外に建つ様々な海外のワイナリーを見て回り、ツーリズムと産業が融合している姿を理想としています。
ーー水辺に醸造所が並ぶ姿を想像すると素敵ですね!
田中さん:我々がロールモデルとして続けていくことで、たくさんの醸造家や醸造所が集まると良いですね。実際に、この短期間で多くの問い合わせや見学希望の方が来てくれているので、もしかしたら皆が求めている事なのかもしれないという良い予感がしています。
新たな酒との出会い
ーーもともと、自分でお酒造りをしたいと考えていたのですか?
田中さん:日本酒は日本の素晴らしい伝統文化の一つですし、海外からの関心も 高いので、その仕事に関わっていられること自体が尊いことだと感じています。しかし、社長や営業という立場では難しいので、「この手で酒を作る」ことにもっと挑戦 したいという想いがありました。
ーー「LAGOON BREWERY」の特徴を教えてください!
田中さん:「日本酒」も作れますが、輸出専用という制限付きなので、国内向けには「その他の醸造酒」というジャンルのお酒を製造する免許を受けていて、その時点で普通の酒蔵とは異なります。お米を主原料にするところにはこだわりますが、別の副原料を使ったり、米麹100%のお酒を作ったり、一切圧搾しない「どぶろく」を作っています 。 いわゆる「クラフトビール」ならぬ「クラフトSAKE」ですね。とても自由な酒造りができるので 、自ずと多様性が出てくるのが特徴です。他にはない多様性を表現したお酒を 作っていくことにこだわっています。
ーー副原料には、どんなものを使っているのですか?
田中さん:新潟市北区の名産であるトマトを使ったお酒を試作しています。トマトと日本酒は相性が良く、味自体がマッチしやすいので美味しいSAKEが完成すると思います。近距離で穫れた 原料だけを使いたいというのもこだわりですね。全ての原料を蔵から半径20km以内でもの にしたいのですが、1年目なので難しく、阿賀町産のお米も一部使用しています。とは言え、阿賀町も豊栄も同じ阿賀野川水系なので、テロワールとしては成立しますね (笑)。
ーー「クラフトSAKE」、流行りそうですね!
田中さん:いろんな副原料を使うベルギービール も、日本では数年前まで「発泡酒」などと同じ扱いでしたが、法改正により、原料の割合によってはビールと認められるようになりました。同じ様に「その他の醸造酒」を 「日本酒」と呼べる時代が来るかもしれないと期待しています。 美味しいSAKEを作って、我々がやっていることや法律の理不尽さ などを知るきっかけになれば良いなと思います。
美味しい酒との出会い
ーーこれまでで、印象に残っているエピソードを教えてください!
田中さん:東京駅で試飲会をしている時に、今まで日本酒を飲んだことがない80代の女性がいらっしゃいました。おすすめしたところ「こんなに美味しいものを飲まなかったなんて、これまで損してきたわ!」と言って、驚くと同時にとても喜んでくれました。お酒が美味しいと、「一緒に何を食べようかな」と食事も気にかけるようになり、人生が豊かになると思います。そのお手伝いができていることが嬉しいですし、やりがいにも繋がりますね。
ーー日本酒は飲まず嫌いの方が多い印象があります。
田中さん:低アルコールを好む時代背景もあり、ビールやチューハイなどに比べると、アルコール度数が高い日本酒は敷居が高いという方が多いと思います。飲みながら料理を食べ、口の中で料理を完成させる口内調理は、チューハイ等では味わえない楽しみ方なので、そこを楽しんでもらいたいですね。特に、新潟のお酒は食と合わせやすい ですから!ぜひ試してほしいです。
ーー最後に、今後挑戦したいことを教えてください!
田中さん:「クラフトSAKE」に興味を持ってくれる人を増やし、この業界を自由な雰囲気に変えていきたいです。日本酒を作る免許が制限なしで取得 できないこと自体、知らない方が多いと思います。美味しい日本酒が新たに生まれるチャンスが無いのはもったいないですよ。アメリカでは毎年、新しい日本酒 (SAKE)の酒蔵ができているくらいなので、日本もそんな風になってほしいですね。そのお手伝いができるように、これからも頑張っていきます!
【LAGOON BREWERY Shop&Cafe】
住所:新潟市北区前新田乙576−1
営業時間:10:00〜17:00
定休日:月曜(月曜が祝日の場合は翌日休み)※季節により変動あり
「クラフトSAKE」これから目が離せないわね!早く豊栄産トマトのお酒を飲んでみたいわ♪