
【プロフィール】
祝 孝之(ほうり たかゆき):佐渡市出身。新潟市内の調理師専門学校へ進学。割烹料亭で腕を磨き、28歳の頃に佐渡へ戻り、ホテルの料理長を務める。漁師も兼務し、佐渡の魚の魅力を活かした料理を提供するようになる。2023年、新潟市中央区に飲食店をオープン。
『新潟人279人目は、「料理と酒とことだまと ありがとね」のご主人・祝孝之さん。佐渡のアジに衝撃を受け、本格的に料理と向き合う決意を固めた祝さんに、オープンの経緯や店名に込めた思いを伺いました』
佐渡のアジが人生を変えた
——祝さんのルーツはどちらですか?
祝さん:生まれも育ちも佐渡です。調理師専門学校に通う為に新潟市へ出るまでは、ずっと島内で過ごしました。
——料理人を目指したのはいつ頃ですか?
祝さん:最初は料理にポジティブな感情を持っていませんでした。専門学校に入学したのも、学費が安かったという理由です。
料理の世界に魅了されていくのは、ずっと後のことですね。
——卒業後の進路は?
祝さん:和食の割烹料亭に就職し、4年ほど修業しました。28歳で佐渡に戻り、ホテルやレストラン、飲食店で経験を積みました。

——佐渡に戻ったことが、料理人生の転機になったのですね。
祝さん:きっかけは佐渡で食べた「アジの刺し身」でした。それまで新潟市内の色々なお店で食事をしましたが、“感動するほどおいしい”と感じることは多くありませんでした。
でも、佐渡のアジは衝撃的で、「佐渡の魚はこんなに素晴らしいんだ!」と思ったんです。
——人生が変わる衝撃だったのですね!
祝さん:それから市場に通い、“魚の処理の仕方”で味が大きく変わることも知りましたね。父親が漁師だったので、午前3時から一緒に船を出し、自ら魚を獲るようにもなりました。
まさに漁師と料理人の「二刀流」ですね(笑)。
——二刀流の生活は大変でしたか?
祝さん:忙しかったですが、それ以上に喜びが大きかったですね。この頃から食材との向き合い方が変わりました。
魚だけでなく、肉や野菜に対しても「最高の鮮度で魅力を引き出すにはどうするか」を考えるようになりました。
——佐渡に戻ってどのくらいで意識が変わったのですか?
祝さん:1年半ほど経った頃です。和食は、“素材の持ち味をどう活かすか”が勝負の料理法です。
自分の進むべき料理の方向性が、その時に明確に見えました。

「命を丸ごといただく」哲学へ
——探求の為に努力した事は何ですか?
祝さん:潜水士の免許を取得し、自ら海に潜るようになりました。海流や入江の形が魚たちにどう影響するのか、「海の中から自分の目で見るため」です。
この経験で魚の見方が大きく変わりましたね。
——どのように変わったのですか?
祝さん:「最高の鮮度だからこそ味わえるものがある」ということです。特に、“魚の内臓”ですね。肝や胃袋は、鮮度が少しでも落ちると臭みが出て食べられませんが、新鮮なものは別物です。
父親の世代は好んで食べていたと聞き、「漁師以外の人にも味わって欲しい」と思うようになりました。

——特に意識するようになったことはありますか?
祝さん:10キロのブリなら、身として食べるのは約5キロ。残りの半分は捨てられてしまうことが多いですが、鮮度が良ければ全ておいしく食べられます。
骨でダシを取り、頭は焼き物や煮付けに。皮も干せば珍味になります。「命を丸ごといただく」という、食材への感謝を大切にしています。
——新潟市への出店のきっかけは何ですか?
祝さん:新型ウイルスの影響で来島者が激減し、それに伴って来店数も大幅に減少したんです。「新潟市内なら、まだ活路が見いだせるのではないか」と考え、新潟市で再出発することを決意しました。
この物件は以前から気になっていたのですが、賃貸物件の看板が一度も出ていなくて…。ある日突然看板が現れ、「これは運命だ」とすぐに契約しました。店舗の改装は、妻と二人で約一ヵ月かけて仕上げました。

「お天塩盛り」と「ありがとね」に込めた想い
——お店のコンセプトは何ですか?
祝さん:「自分たちが心から行きたいと思えるお店」です。おいしい料理と厳選した日本酒をゆったり楽しめる空間を目指しています。
“漁師の食べ方を主体とした料理”も特徴ですね。
——店名の由来は?
祝さん:「ありがとね」は、私の口癖から来ています。お客様にも「ありがとねに行こう」と言ってくだされば、自然と感謝の言葉を口にすることになりますよね。
感謝の言葉は、人を前向きにすると信じています。そんな「温かい気持ちが広がる場所にしたい」という思いを込めました。
——サブタイトルの由来についても教えてください!
祝さん:サブタイトルの「料理と酒とことだまと」は、妻が言霊(ことだま)の先生であることに由来しています。
お店が活動の拠点であり、ギャラリー的な役割を持つ空間になればと願っています。

——看板メニューの「お天塩盛り(おてしょもり)」について、詳しく教えていただけますか?
祝さん:「おてしょ」とは、新潟や長野、大阪、京都などで使われている方言で、「手塩皿」の略です。
当店の「お天塩盛り」は、小皿に旬のおいしいものを少しずつ盛り付け、様々な味覚を楽しめるメニューです。
——最後に、今後の目標を教えてください!
祝さん:おいしいものを食べると、人は“幸せな笑顔”になります。その瞬間だけは嫌なことを忘れ、心からの笑顔になれると思うんです。そんな「至福の時間」をお客様に提供したいですね。
料理のおいしさはもちろん、小さな店だからこそ生まれる距離感や温かい会話を大切にし、「明日も元気に頑張ろう」と思ってもらえたら幸せです。
「今日もありがとね。」

【料理と酒とことだまと ありがとね】
住所:新潟市中央区弁天3丁目4-11
電話:080-8002-3939
営業時間:17:00~22:00(土・日曜は16:00~)
定休日:水・木曜日、ほか不定休
公式Instagram
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「お天塩盛り」を堪能したいわ♪